長島茂雄の残した素晴らしい言葉


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 

6月3日、長嶋茂雄氏、逝去。享年89歳。私は生前の彼に、7度のロング・インタビューをさせて頂いた。その中から、今も心に残る素晴らしい「ミスタープロ野球」の言葉を少しでも紹介したい。

 ▼「地獄のキャンプ? いいですねえ。若い連中が天国でお釈迦様の隣に座っていても仕方がない。地獄のほうが楽しいですよ」(79年秋。最初の巨人監督時代。伊東キャンプで)▼「我々はプロですから。プロなら観客(ファン)の皆さんに満足していただかなければならないわけで。打撃(バッティング)の調子の悪い時は守備(ディフェンス)で。守備でアッピールできないと盗塁(スチール)や走塁(ラン)で。そういう意識を僕は持っていて、三振でも、どうせ空振りするなら、イイ空振りを観客にお見せしようと、鏡の前で練習したこともありました」(『Number195』88年5月6日より)▼「四球(フォアボール)で勝負に勝ったと喜ぶ打者がいたら、間違いだと言いたいですよ。勝負とは宮本武蔵の『五輪書』にもあります。命あるか死ぬかの二つに一つ。打つか打たれるか。切るか切られるか。四球は単に勝負が延びただけです」(『同228』89年9月20日)▼「今はちょっと女性と歩くだけでマスコミが騒ぐ。けど勝負師の男はいい女性に育てられる面もあります。水商売系のいい女性のすべすべした肌を抱いて、その快楽の味がカンフル剤としてプレーに生きることはありましたね」(同)

 長嶋さんの言葉は感覚的でわからないといわれるが、私は、そうは思わない。野球やスポーツの話をする時、彼ほど素晴らしい言葉を連発した人はいなかった。が、私が立教大の教壇に立った93年。長嶋茂雄を知っている学生は50余人の中でゼロだった。TVの追悼番組も低視聴率。嗚呼。昭和は遠くなりにけり。合掌。