斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

       

     憲法25条の精神を本物に 

 


 さいとう・たかお 新聞・雑誌記者を経てフリージャーナリスト。近刊「『マスゴミ』って言うな!」(新日本出版、2023年)、「増補 空疎な小皇帝 『石原慎太郎』という問題」(岩波現代文庫、2023年)。「マスコミ9条の会」呼びかけ人。


  

 厚生労働省が生活保護費の引き上げに向けた議論を始めている。2028年の改訂予定を1年前倒しして、27年度にも実施する方針という。

 実際、私たちの社会には貧困にあえいでいる人が多すぎる。昨年1年間の生活保護申請件数は25万5,897件(速報値)。比較可能な過去12年間で最多となった。

 狂乱物価、単身世帯の増加、過小な年金支給額等々と、原因は山ほど。全体の約半数は高齢者だというが、若者の申請も急増中だ。

 大企業エリートの初任給アップばかりが喧伝(けんでん)される一方で、その輪に入れない層はより一層の生活苦を強いられる。階層間格差を拡大してやまない新自由主義イデオロギーこそ諸悪の根源、と断じて差し支えないだろう。

 生活保護は長年、目の敵にされ続けてきた。とりわけすさまじかったのが、13年から15年にかけての生活扶助基準引き下げだ。平均6.5%、最大10%の下げ幅は史上最大。全国各地で集団訴訟が提起され、この6月27日に最高裁で、ついに原告勝訴の判決が言い渡されている。

 裁判で明らかになった国のやり方は、酷薄そのものだった。基準引き下げには国民の消費動向なども踏まえて決定されていた慣習を一方的に変更。審議会にさえかけずに、当時の〃物価の下落〃のみを根拠としていた。

 前後して展開された生活保護バッシングも記憶に生々しい。丸乗りして政府の卑劣を正当化したマスコミ報道の情けなさたるや、万死に値するとしか言いようがなかった。

 ともあれ今回、政府も最低限の軌道修正を図ろうとはしているらしい。生存権を保証する憲法25条の精神を、今度こそ本物にしようではないか。