暇工作 「あんたが言うか」

ひま・こうさく 個人加盟労組アドバイザー        


 

 「意見の違いは(暴力ではなく)平和的に話し合って解決すべきではないか」。夕食会における発砲事件を受けてのトランプ氏の発言だ。すぐさま高市首相も追従した。まさにそのとおりなのだが、素直に拍手を送る気にはなれない。引っかかるのは「お前が言うか」の気分が先に来るからだ。世界中で多くの人々が示した反応もそうだったのではないか。

 この「話し合いと暴力」論は、暇に今一つ、かつての解雇撤回闘争中の一場面を思い起こさせた。

 暇たちは闘争中、長期にわたって連日本社前スタンディング抗議行動を続けていたが、ある日、その現場、本社正面玄関から社長が姿を現したことがある。昼食のための外出だったのだろうが、連日、数十人が駆け付けての行動は昼食時の12時過ぎからと決まっていたし、始めてから数年が経っていたから、それを社長が知らなかったはずはない。自分が解雇した当事者たちがそこにいることを認識していたなら、ノー天気というより、あまりにも暇たちをバカにした態度だった。思わず暇は社長の面前に大手を広げて立ちはだかっていた。後先なんか考えた行動ではない。いわば本能的に反射神経が反応したのだ。大声も出していた。「社長、解雇を撤回しなさい。交渉に応じなさい」と。

 それを聞いて社長はやっと事態を呑みこんだようだ。付き添い(というか護衛)の社員を目で探したが、彼は暇の剣幕に怖気づいて、いち早く踵を返して社内に逃げ込んでいた。数十人の抗議集団に取り囲まれて孤立無援の社長が暇に対して叫んだ言葉が「キミ!暴力は止せ!」だった。社長の頭には、暇の顔認識機能は搭載されていなかったのだろう。トランプ氏がイランの学校を爆撃して多くの死者を出しても、その一人ひとりの人生を個別に考えてみることなどないのと同じように。

 暇は続けて叫んだ。「暴力を止せといわれるなら、問答無用の首切りという暴力を止めなさい!」

 顔面蒼白。人波を必死でかき分けて社屋に逃げ帰った社長だったが、この「事件」を機に、解雇撤回闘争の広がりへの認識を改めたとも伝えられる。

 権力者は自らの権力を行使するとき、その具体的な結果についての想像力が働かない。相手の立場など、考えもしない。自分は絶対的に正しいという前提で行動するから、手段としての暴力はかれらにとっては「暴力」の範疇に当てはまらない。それでいて、相手にはステレオタイプ的に「過激分子」「左翼暴力分子」などのレッテルを貼る。

 このダブルスタンダード、自己矛盾という視座を持たない相手に、それを指摘しても噛み合わない。だから、私たちは相手ではなく圧倒的多数の人々に語りかける。そして彼らを裸の王様にする。それがたたかいの本質だと思う。