「盛岡だより」(2026.3)
野中 康行
(日本エッセイスト・クラブ会員・日産火災出身)
サクラ前線・2026
東京でウメの開花は1月22日ごろだったから、「ウメ前線」はすでに出発している。サクラの開花予想は3月21日で、「サクラ前線」はウメに2か月遅れ、先に出発したウメを追う。
ウメ前線の北上速度は日に5キロ、サクラは20キロである。日に15キロほど差を縮める。日に日に距離が狭まり、東北に入ってその差が数日で、盛岡あたりではウメがサクラより2、3日早く咲くぐらいまで縮む。
津軽海峡を渡るあたりで、完全にサクラが追い越し、北海道ではサクラの後にウメが咲く。
古来、農民はサクラの開花を農作業の目安としてきた。サクラは開花時期のブレが少なく、花の期間も短くて作業開始の目安に適しているからだ。コブシの花を「田打ちザクラ」と呼んで田起こしを始め、「種まきザクラ」と呼ぶサクラの古木が各地にあって、この花が咲くと苗代に種籾を蒔いていた。
中央気象台(気象庁の前身)が、開花予想日を発表し始めたのが1928(昭和3)年からだが、当時は農作業開始の合図で農業関係者への情報であった。今は、単なる見ごろシーズンの情報になっている。
1992(平成4)年。
広島勤務だった私が、4月1日付で栃木に転勤になった。送別会が3月末、歓迎会が4月初めでいずれも花見を兼ねたものだった。その年のゴールデンウィークに帰省し、4月末に岩手でお花見をした。5月初めに妻の生家である弘前に行ったが、そこでもお花見だった。この年は「サクラ前線」を追いかけながら、1シーズンに広島、栃木、岩手、青森と4度のお花見をしたのである。
そのころ、サクラの開花が年々早くなっていることが話題になっていたが、それでも数日から1週間程度だった。
今年、日本気象協会発表のサクラの開花予想では、東京が3月21日、盛岡が4月13日で札幌は4月26日である。5月に入って咲くのは北海道のごく一部地域だけになっている。たった34年ほどの間に、東京で10日、東北では2週間も早まっているのである。
お花見を4度したこの年に「国連気候変動枠組条約」が採択されている。地球温暖化による気候変動などに、先進国だけでなく世界のすべての国が協調して対策を講じなければ手遅れになると切羽詰まった思いからだった。あれから世界中でさまざまな取り組みがなされてきているが、異常気象による惨状がだんだん誰の目にも見えるような酷さになってきている。
このさなかの1月7日、トランプ大統領は「米国の国益に反する国際組織・協定・条約からの脱退」を発表した。対象となるのは、66の国連組織と国連以外の国際組織で、この条約も含まれている。
地球の環境を良くする取り組みが「国益」に反する? 組織への負担金の支払いがいやだ?
自然と政治を、商売の損得勘定で考えているのにはあきれてしまう。