総選挙結果 「強兵貧国」にアクセル
五十嵐仁 法政大学名誉教授に聞く
2月8日投開票の衆議院選挙では、自民党が316議席と、全体の3分の2を超える議席を獲得しました。連立相手である日本維新の会を加えると4分の3にも上ります。選挙結果の分析と、今後予測される展開を五十嵐仁法政大学名誉教授に聞きました。
巨大与党が誕生しました。〃奇襲攻撃〃のような解散に、戦後最短の選挙日程、投票所入場券が直前まで届かないなど異例ずくめの選挙でした。五十嵐教授は次のように述べます。
「解散を『しない』と言いながら、国会審議が始まる前に突然解散しました。審議でボロが出るのを避けたかったのでしょう。政策論争は深まらず、大雪で投票もままならない。選挙戦で高市さんは『国論を二分する政策の大転換』と言いながら、どういう方向かの説明を避け続けました。さらに問題なのは、高市さんの人気投票にしてしまったこと。アイドルグループのセンターを選ぶ選挙のようになってしまいました。議院内閣制の下では、有権者は政策を吟味して各政党の候補者を選ぶのであって、首相を選ぶのではありません。極めて問題の多いやり方でした」
自民党は参議院で法案を否決されても再可決できる力を得ました。どんな政策が待ち構えているのか。
五十嵐教授は「インフレで大変な時に、『積極財政』による財政出動をすれば、一層円安に振れる可能性が高い。物価はさらに上がるでしょう。長期金利の上昇に伴って財政赤字が積み上がり、円の信用低下を招きかねません。高市さんは選挙中、食料品の2年間消費税ゼロを突然言い出しました。選挙後の国会勢力ではすぐに実現できるはずですが、『国民会議』に丸投げし、漂流を始めています」。
突然の消費税ゼロ表明は争点つぶしのための方便だった可能性が濃厚だということ。さらに、今後大転換が待ち受けています。
生活と平和守る世論を
「安保3文書改定、防衛費の大幅増を進め、戦後日本の国是である専守防衛、非核三原則、武器輸出への規制を全部壊して、軍事大国化をめざすでしょう。中国の領土の奥深くまで攻撃できるミサイルを手に入れて、米国と一緒に集団的自衛権で中国と戦争できるようにする。核武装だってしかねません。成長戦略には軍事産業も含まれます。行く先は、武器の製造・輸出で利益を上げる『死の商人国家』です。これらを私は『強兵貧国』路線と呼んでいます。日本は戦争と貧困への道を突っ走るでしょう」(同教授)
日本の名目GDP(国内総生産)は、米・中・独に次ぐ4位で低下傾向です。今年はインドに追い抜かれる見込み。大軍拡は、大増税、社会保障切り捨てに直結します。
戦前回帰の政策も目白押しです。人々の目と耳と口をふさぐ「スパイ防止法」の制定に、日本版CIA・国家情報局の設置。『継戦能力』確保のために武器弾薬を製造する国営工廠(こうしょう)の復活と、「大佐」など戦前の軍隊仕様への自衛隊の階級呼称の改変、国旗損壊罪の創設、男系天皇を優先する皇室典範改正などが既に浮上しています。
時代を逆行させる政治と今後どう対峙していくべきか。同教授は「『強兵貧国』路線は、人々の要求や願いと必ずぶつかります。リベラル政党や、労働組合、市民団体が国会の外で世論を盛り上げることと、幅広い人々が一致する要求で協力し、生活と平和を守る『とりで』が求められます」
選挙制度の弊害と、変節が背景に
自民党圧勝の背景にあるのが、小選挙区制と、野党第一党の大敗でした。
小選挙区(定数289)で有権者総数のうち、自民党に投票した人の割合「絶対得票率」はわずか26・9%。一方、同党の小選挙区での議席占有率は86・2%でした。圧倒的多数が死票になる制度の弊害が表れています。
立憲民主党は選挙前に公明党と急きょ合流し、「中道改革連合」を結成。安保法制と原発再稼働の容認に転じました。これが従来の支持層を失望させ勢いを削いだと、五十嵐教授は指摘します。