随  感  録   

 

             年末年始、メガ損保の動き

    

                      真 山  民


  昨年末から新年にかけての新聞報道からメガ損保の動きを追ってみよう。

 まず、今月号の「現代損保考」の編集委員による座談会「学生の就職先選択の変遷と損保の仕事を考える」に連なるような記事が1月8日の日経電子版に載っている。「3分でわかる生保・損保」、就活を行なっている学生向けに、業界の現状が「3分でわかる」という記事だ。

 

 政策株式の売却益で海外企業を買収、利益を拡大

 

それによると、損保業界は海外企業への投資を通じて新たな収益源を確保しようと、例えば三井住友海上が米保険会社WRバークレーへ約6000億円、SOMPOホールディングスが米アスペン・インシュアランス・ホールディングス(HD)に約5000億円を出資したことなどを伝えている。

 損保は取引先との関係強化を目的として政策保有株式を多く抱えていた。しかし、23年に発覚した企業向け保険における価格調整(カルテル)の温床となったとして、29〜30年度までに全ての政策株を売却する予定で、その売却益を事業に投じて、安定した利益を生める体制づくりを急いでいる。

 人事制度を見直す動きも広がっている。東京海上日動では26年4月から同意なき転勤を廃止、生保でも、第一生命や大同生命が内勤職を対象に同様の方針を示している。リストラの動きもある。今年4月に発足する三井住友海上あいおい損害保険は、合併による効果で30年度までに人件費や物件費、代理店手数料など1500億円規模のコスト削減を行うほか、2社の拠点を集約し、27年4月に360か所だった全国の拠点を240か所とする。持株会社のMS&ADインシュアランスグループHDは、国内損害保険事業を対象に採用抑制などにより人員を1割減らすことでコスト削減を進める一方で、北米を中心にした海外事業などで31年3月期の修正利益を7260億円と、26年3月期予想比で65%増やすとしている。

 

 人員削減と効率化の決め手はAI

 

 AI(人工知能)、特にAIが業務を自律的にこなすAIエージェントの活用も活発になっている。東京海上HDは、AIエージェントの構築で米オープンAIと提携、まず調査・リポート作成の「ディープリサーチ」機能を営業店で活用し、社内の商品情報を使った施策立案などに生かす。グループ全体でAI機能を組み込み、社内システムの利便性を高めるというものだ。

 まずは東京海上日動火災保険が、全国の営業店による戦略策定でオープンAIのディープリサーチを活用する。今後は社内の保険商品などの情報も統合し、地域にあわせた商品提案や施策立案などに生かす。顧客向けには電話による問い合わせ対応などを部分的にAIエージェントに任せる。

 中長期的に国内外のグループ会社で業務プロセスにAIを取り込み、契約や文書処理など様々な分野で、AIが社内システムを操作して自律的に業務をこなす体制を整える。

 

 海外取引やサイバー保険でもAIを活用

 

三井住友海上は2027年3月末までに、海外に拠点を置くグループ会社12社との再保険取引を管理するシステムを導入する。本社と海外の間では年5万3000件の保険取引があるものの、メールなどでやりとりしていた。システムを導入することでミスのリスクを減らし、迅速な保険金支払いにつなげる。これまではデータが集約されていなかったため、事故があった際に契約内容を確認するのに時間がかかっていたが、システムに数値などを入力する作業もAIを使って自動化し、年間2000時間の業務時間削減を目指す。電子ファイルを読み取り、保険料の額や保険の満期などを自動入力する。

 三井住友海上や損害保険ジャパンは専門部署を新設し、サイバー保険の体制を強化する。サイバー攻撃の被害を補償する保険について顧客企業の世界の拠点を一括で管理する体制を整える。専門部署を新設し、拠点ごとに結んでいた契約をまとめて提供する。サイバー攻撃は1カ所でも被害が出れば世界の供給網に支障が出かねない。金融面でリスク管理を高度化し、製造業など企業のグローバル化を後押し、サイバー保険の販売を通して企業との結びつきを強化する狙いだ。

 

 全てのステ-クホルダーに目を配った経営が求められる

 

 こうしてみると、経済や産業の変化に急速な少子高齢化による人口減少、さらに労働力(生産年齢人口)の減少も重なって、損保業界も様変わりしつつあることが分かる。特にChatGPTやクロードといった生成AIは、より高度な機能を備えて対話主体の道具から自律的に動くAIエージェントに進化しつつある。旅行を例にすれば、ユーザーからの問い合わせや質問に対して自動で会話を行うプログラムであるチャットボットが旅行行程を提案するだけなのに対し、AIエージェントは航空券やホテルの予約までこなすというイメージだ(『日経大予測2026 これからの日本の論点』)

 昨年は多くのAI企業がエージェントサービスを打ち出し、「AIエージェント元年」と言われた。ヒューマノイド(人型ロボット)、自動運転車の開発と実用化も進む。いずれもAIと密接に結びつき、損保のあり方や雇用に大きな影響を与える。

 AIが雇用を縮小するか、それとも拡大するか?の予測はともかく、経営者には株主、従業員や代理店は勿論、契約者・取引先まで含めた保険産業のステークホルダー(Stakeholder 企業やプロジェクトの遂行における利害関係者)にまで念頭においた経営が強く求められる。