座談会「現代損保考」

            

               参加者 =編集委員12名  

        学生の就職先選択の変遷と損保の仕事を考える

 


 今なお学生に人気の高い東京海上日動火災の新本社ビル完成予想図(みづたま会報185号より)

 


         

         損保への就職希望者が減っている 

 B/ 最近、損保へ就職を希望する学生が減ってきているといわれています。学生の意識は、社会意識を知る上で重要な一つの指標でもあるので、この事実を切り口に、あらためて、現在の損保の社会的位置や、そこで働く意味などについて確かめるために、幅広くディスカッションをしてみたい。今月は編集委員のうち12名参加による「現代損保考」です。ご自由にご発言ください。まずは、学生の動向について。

 か/ 「Re就活キャンパス」というサイトの「2027年卒予定の学生の就職ランキング(総合)によると、 損保で総合100位以内にランクされているのは東京海上日動火災のみで82位。(昨年40位)。三井住友海上火災は133位(昨年328位)。損保ジャパンはランク外。 全体的に損保が不人気なのは業界として、この先見通しが暗いと思われているせいだけではなくて、損保そのものの魅力とか、良さも問われているということかもしれないと思う。 

 M/ このところ目立った一連の不祥事のためだけではないだろうが、損保のイメージが落ちていることは確かだ。 

 か/ 因みに生保は第一生命が146位(昨年312位)、大同生命が47位(昨年649位 )明治安田生命が150位(137位)日本生命162位(165位)、住友生命168位(昨年145位)となっている 。

 ま/ 生保も情報漏洩を散々やった4社が200位以内にランクされているから、不祥事自体はあまり学生に影響しているようには見えない。 

 か/ 学生に人気が高い企業の上位にランクされているのは、東宝、オリエンタルランド、KADOKAWA、集英社といったエンタメ系企業が多い。 因みに、1位から5位は伊藤忠商事、味の素、東宝、任天堂、オリエンタルランドという並びです。この顔ぶれは順位の変動 はあっても、昨年と変わっていない。「マイナビキャリアリサーチLab」というサイトには、文系理系別に、2011年卒から2025年卒までの ランキングが載っていますが、そこには、文系学生の志望企業として、東京海上日動火災は2014年10位、15年9位、16年10位、17年6位、18年5位、19年3位、20年3位、21年3位、22年1位、23年1位、24年2位、25年6位と一貫して上位につけているが、他の損保で10位以内にランキングされているのは、損保ジャパン日本興亜の18年9位、19年8位以外ない。 

 ま/  いろいろランキングが出されているが、やはり、東京海上日動火災は別格なんだ。

 か/ 2002年の文系では1位はニトリ、2位みずほフィナンシャルグループ、3位味の素、4位伊藤忠商事、5位日本航空です。

             

           多様化&深掘り 

  / 学生の志向が多様化しているということでしょうか。

  B/ 多様化しているのは確かで、それについては後ほどいろいろな角度から話し合ってほしいのですが。

 駿/ 多様化というだけでは少し分析が浅い気もする。

 ま/   深掘りが進んでいる…。

 か/ 学生は就活に当たり、自己分析、業界研究、企業研究、エントリーシートの作成、筆記試験、 面接と、多くの関門をくぐらなければならない。さらに、 AIの発達普及が、自分の将来にどのような影響 を及ぼすか、さらに損保企業が従来の自動車や火災保険だけではなく、サイバーリスク等の新たなリスクへの 対応や、金融など非保険分野への進出を、海外企業を買収してまで行い、収益の拡大を図っていることを、東京海上日動火災など、メガ損保に就職しようという学生は考えているんじゃないか。MS&ADが、来年の三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保の合併を前に、人員1000人の削減を発表したが、これも海外事業のさらなる拡大という経営政策に基づいた施策の一つ。こうした企業の経営方針は、損保だけではなく、少なくとも学生が就職しようと考えている企業・業界に共通している。そのあたりまで、果たして学生がどれだけ理解しているかは不明だが、しっかり見ているようにも思える。

 O/ 学生の傾向把握もそうだが、アンケートとか、統計を鵜呑みにしない方がいい。意図的なものもあるから。それと、エンタメ企業人気は、この職場なら個人の創造力が生かせるという思いにつながっているんじゃないか。東大生なんかは、コンサルタント系志向が多いと聞くし。

 B/ 現場で苦労するより高みからアドバイスするほうがリスクも少ないし、カッコいい。

 か/ 学生は損保の場合AIの導入や、海外市場への進出、サイバーリスクなどの新しいリスクの保険などに対応していけるかという不安とともに、挑戦したいという意欲をもって就活に臨んでいるのではないか。その点から考えると、「損保が学生の就職先として魅力を失いつつある」とは、必ずしも言えないのではないかと思う。

         

           賃金と労働時間は基本 

 M/   自分がやりたい仕事を目指すという意味での選択肢は広がっているのかも知れないが、就職先を選ぶ基準となれば、やはり、かつての損保の魅力であった、給料と労働時間の問題は重要なポイントだろう。私が入社したころの損保業界は給料も労働時間も抜群の良さだった。毎年の賃上げが数年続きで大幅アップの連続だった。電卓叩いてみると、このままのアップが続けば、50歳くらいで1億を超える年収になる。この会社に在籍したまま過ごすのも悪くないかな、と思わせる時代だった。やっぱり、カネの魅力は大きい。

 駿/  かつて損保は就職エリートしか入社できなかった高根の花。地方に行くとその土地の長者番付の上位に損保の人が載ってるっていう話がたくさんあった。

 M/  労働時間は9時~4時だった。いまは就業規則の上でも変えられたのかも知れないが…。それが長時間労働で不祥事として報道されるまでになった。ま、その後改善するとのメッセージは出してはいたが…

 ま/  しかし、労働時間は本当に改善されているんだろうか。退社時間が決められているとか、電灯が消されるとか、パソコンの電源が決められた時間に切られるから以前のような残業は改善されたといわれるが、ほんとかな?

 M/  営業なんかどうなっているのか。ノルマの問題もあるし。単に時間の問題だけでなく、精神的なストレスなど、働く上では、あたらしい問題も生まれているようにも思う。ビッグモーター事件の後、会社は「トップライン(営業売り上げ数字)は追いません」というメッセージを出したが、ではどうやって日常の営業管理をやっているんだろう。関係者に聞いてみたが、「月々の営業数字を追うのはやめた」というだけで、その代わりに「どうやって月々の成果をカウントしているのか」と聞いても答えが返ってこない。

 も/ お年寄りがコンビニやファミレスで、自動支払機の前でうろうろするように、会社のシステム自体に馴染めなくなっているひとも多いのではないでしょうか。労働の量だけではなく、新しいストレスなど、労働の質も変わってきている。長時間・過密労働も完全になくなったわけではないし。

 こ/ 19時消灯なんていっても、その分、朝6時、7時の出勤だってある。

 京/  首相が「働いて働いて働いて…」と叫ぶようなご時世だから。

 雪/ 私は損保の関連会社に勤務しているが、そういう現場にいるものとして感じるのは賃金体系だって雇用形態によって格差があるし、給料を決める人事査定の方法だって本当の意味での成果主義になっていないことを実感する。恣意的、好き嫌いで決められたり、いつも下積みは置き去りだ。企業の中にはそうした格差や差別がたくさんある。これは、仕事の選択肢とかとは違った角度からの問題意識だが、学生さんには表向きの華やかさや、夢だけでなく冷厳な現実もリアルに見てほしいと思う。 

 B/ そう。学生の選択肢が多様化したこと、仕事への深掘りが話の中心になっているけど、雪さんからの指摘のように、その損保を下支えする子会社や雇用形態の異なる社員がいること、そういう仕組みこそが社員全体のあり様をも規定しているという大きな構造への観点を忘れないようにしたい。学生には見えない部分だろうけど。

         

            損保のあり様に変化

 M/  かつては、全業種で就活生の人気企業ランキングで東京海上日動火災が1位、安田火災が3位なんてことがよくあったのに、東京海上日動火災でさえ82位。Oさんが言うように、特定の調査だけを鵜呑みにするのもなんだが、どうして、損保はこうも人気 がなくなったのだろう。20年くらい前から、どんどん下がりだしたように記憶している。賃金と、労働時間もそれほどではなくなってきている。選択肢の多様性が言われたが、やはり損保という事業そのものが、現代の若者にとって魅力のない事業になってきているのではないか。まず、保険会社は保険だけではなく、ほかのビジネスにも手を出し始めて いること。保険は社会にとって必要な事業ではあるが、損保独自の魅力がアピールできていない。保険だけでやっていけない状況になっているということがプラス評価よりマイナス評価になっているのではないか。まじめに大衆保険だけで稼ぐビジネスモデルでまじめに学生も呼び込む、というオーソドックスなスタンスが失われたことがベーシックな意味での原因ではないか。

 京/ 数年前、東京海上日動火災の前社長が「何年か後に、東京海上は、かつて保険もやっていたんだ、と言われる時代が来るだろう」と言ったことがあった。様々な分野に活動の場が広がるなら、自分の得意分野、専門分野が生かせるかも知れないと夢を見る人が増えるかも知れないが、言葉に勝手な夢を描くのはリスキーだとも思う。

 か/ しかし、現実には、科学技術の発達、社会のあり様の変化から大衆保険だけで保険企業が成り立っていくことは不可能だ。また保険と金融は表裏一体であり、そこで発生するリスクにも無関係ではいられないということも無視できない。

 M/ 別分野と言っても、現実はマネーゲームというべき金融関連が多い。いま盛んに注目を浴びている損保の肝入りによる介護分野はそうでないかも知れないが。金融と言えば銀行だが銀行も以前に比べれば人気凋落がひどい。

 B/  Mさんのご意見は正統派だが…。

 / しかし、保険自体も仕事の範囲が広がっているのは事実。保険だけでは生き残れないというのが、損保側の言い分だ。

 B/  それには異論があるが、そのテーマはさておくとして、多様化は損保企業の内部にも広がっている。社会の需要に対応して新しい保険も次々と出ているし…。

 こ/ 産業サイバーリスク保険やクマ保険?

 京/ 「クマ保険」は「クマ侵入時施設施設閉鎖対応保険」と「緊急銃猟制度費用補償保険」の二つがあります。前者は観光・レジャー施設の敷地内にクマが侵入し、施設を閉鎖した場合に運営事業者が取り消した予約分の営業利益の損失と、クマ対策費用を補償する。後者は銃猟の実施に伴い発生する第三者の財物損害などに対して、自治体が行う損失補償に要する費用を補償します。会社は「社会問題解決の取り組みの好事例」と胸張っていますよ。

 も/  社会問題解決、ですか…

  O/  就職戦線の変化は、損保だけでなく産業規模で起きている。たとえば、新聞・出版は学生から見放されている。朝日新聞にはもう何年も東大卒はゼロだ。経営者は嘆いているだろうけど。

 M/  なぜなんだろう。

 / メディア不信でしょうか?

 O/  栄枯盛衰でしょう。

 M/ 栄枯盛衰か。いいねえ。 それから労組問題だけど、損保の場合、大勢が所属する組合が御用組合という事実が損保人気が陰るひとつの要因ではないかと思うのだけど?

 か/ 学生は労働組合についてなど、関心がないでしょう。

 / そうでしょうか?

 B/   御用組合論は、学生がそう認識しているという意味ではなく、労組が正義の立場に立っていないために、結果として企業の不祥事へのチェック機能が弱まり、損保への社会的批判が強まる一因になっている、賃金や働きやすさの面でも、魅力に陰りが生まれている。学生が本能的にそうした結果から労組弱体化=御用組合というイメージを持っているということではないか

 も/ 損保の多くの労組が、現実に「たたかわない」労組になってきていることは否めませんが、個々の労組ではがんばっているところもある。かつての「たたかう全損保」というイメージを評価基準にしない方がいいかも。

 雪/ 私は個人加盟損保関連労組組合員ですが、こちらは、しっかりたたかっています。

 B/ ではこのへんで中休みを入れます。後半は仕事のやりがい論とか、損保の仕事についてさまざまな角度から、さらに考え、議論を進めてみたいと思います。(以下2月号)