暇工作 「賀状絶えるとも」

ひま・こうさく 個人加盟労組アドバイザー        


  年賀状のやりとりが少なくなった。かつては職場で顔合わせをする同僚や上司にも出していた時代もあった。まさに廃止すべき「虚礼」だったが、無駄なことに気を使っていたものだ。

でも、途絶えて寂しい便りもある。年齢や環境を考えると仕方ないのだが、それだけに余計その人とともに内容の重さを感じてしまう。

Fさんもその一人だ。数年前の便りを読み返してみると、そこには生き生きとした「悪代官追放記」なるものが記されている。職場の悪評高い課長の部下イジメを、10名以上の女子社員から相談を受けて、当事者たちと対策を相談し、作戦を練り、一年かけて、その課長(悪代官)を職場から「追放」した話だ。

Fさんは、勤務している支店でただ一人の少数派組合員だった。ある代理店氏から、「課長が連日打ち合わせと称して部下の女性社員(その職場はほとんどが女子社員)をイジメてることを、あんた、知ってるのか?第一組合員ならなんとかしてやりなさい」といわれたのがきっかけだ。さっそく女子社員に聞いてみると、課長の横暴ぶりが明らかになってきた。「私語一切禁止。離席はたとえ一分でも全部俺の許可のもとに行え。毎日30分はサービス残業しろ。課内の愚痴は一切口外してはならぬ。黙って俺についてこい」と締め付けているという。さだまさしの「関白宣言」を気取ったつもりかも知れないが、やられる側にとってはたまったものではない。現実に毎日数人が泣かされていたのだ。

Fさんは、なんとかしたいが、自分が請負って、課長に怒鳴り込むなどという方法が成功する筈もないことは重々わかっている。当該課長の顔はもちろん知っているが、そもそもは別の課の話なのだ。やはり、「当事者みずからがどう立ち上がるかが本筋だ。その前提で相談し知恵を出し合うことが本筋だ」と気づき、怯え黙り込んでいる女子社員たちを励ましながら密かに話し合いを繰り返した。みんな納得しあった作戦は、「愚痴を口外してはならぬ」はずの職場の愚痴を、あえて逆手にとって「他の課の同僚に広く伝えよう作戦」に出ることにしたのだ。当該課長には当面頭を下げて逆らわないが、わかってくれそうな人を別の課に数多くつくろうという多数派構築、課長包囲作戦である。バレたってみんなでやればこわくない。敵の強いところでは引き、弱点を見つけたらそこに食らいつく。追われたら、味方の広い海の中に戻る。仲間たちと闘いについて話し合って内容を確かめ合う。このゲリラ戦、ヒットエンドラン作戦のなかで、10数人の当事者たちの互いの信頼と団結は次第に深まっていく。このたたかいは、1年の長期戦となったが、ついに課長への転勤命令が下されるという結果で決着した。当事者たちは自分たちの力に自信を持った。その後の彼女たちの人生にも少なからぬ影響を与えたという。

現在、個人加盟労組の職場で起こっている数多のイジメの実態と闘い方はこの闘争方法が一つの参考モデルになっている。暇は同様の事件が起きると、必ずこの話を紹介する。

年賀状は絶えたが、Fさんの残した教訓は彼の知らない労働者たちに引き継がれ 生き続けている。たたかいは様々な人によって常に上書きされ、磨かれてバージョンアップを重ねている。たたかい自体が成長する生きものなのだ。