薬物使用(ドーピング)OKの「エンハンストゲームズ」の抱える大問題


       

        玉木 正之

 

たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)    


 

 5月24日アメリカ・ラスベガスで「エンハンスト(強化した)ゲームズ」という名称のスポーツ大会(?)が行われた。これはオリンピックなどで禁止されているドーピング(薬物使用)などの禁止事項を解禁して、人間の記録の限界を試すことを目指した大会で、トランプ大統領の長男らが資金援助して開催された。

 陸上(100m走と女子ハードル、110m男子ハードル)、水泳(50m・100m自由形とバタフライ)、重量挙げの3競技に42人の選手(29人が五輪選手)が参加した。

 IOC(国際オリンピック委員会)は、薬物使用を許可する大会は人体実験だと非難。WADA(世界反ドーピング機構)も選手の身体への追跡調査もせず無責任と非難したうえ、USADA(アメリカ反ドーピング機構)が、トランプ大統領の長男の存在に遠慮してか、反対声明を出さなかったことも批判した。

 大会の結果は水泳男子50m自由形でギリシァのゴロメエフ選手が20秒88の世界記録を上回る20秒81の「非公認世界記録」で優勝。優勝賞金25万ドルと世界記録を上回ったボーナス100万ドルの合計125万ドル(約2億円)を獲得。しかし、世界記録を上回ったのは彼だけのうえに、世界選手権2位・パリ五輪5位の実績ある彼が、全身を覆うスイムスーツを着用しての記録で、ドーピングによる人間の「強化」が証明されたとは言えない結果に終わった。

 そしてドーピング以上に注目されたのが巨額の賞金。アメリカではハリウッドのマッチョ系映画スターが筋肉増強剤を用いていることは周知の事実で、男子の筋肉増強剤の使用による副作用に警鐘を鳴らす声も出ている。今回のエンハンスト・ゲームズが回を重ねれば、いずれ賞金目当てに薬物を使用する若者たちの問題が出てくるだろう。