松久 染緒 随感録」        

                     

まつひさ・そめお 元損保社員、乱読・雑学渉猟の読書人で、歌舞伎ファン。亥年生まれ。


トランプ大統領の行動原理

  論語にいわく「巧言令色少なし仁」 言葉巧みにお世辞をいい、相手に気に入られようと愛想よくふるまったり、果ては言葉でごまかすような人は、誠実さや人としての信用に欠けるものだ

世界中で混乱を巻き起こしているトランプ米国大統領や、もはや詰んでいるといわれているわが高市首相に当てはまらないか。それはともかく、トランプ大統領の行動原理は、冒頭のような生易しいものではなさそうだ。同大統領と25年以上の関係があるという米イエール大のJ.ソネンフェルド教授によれば、次の通りだという。

1.     1,すべての権力を自分に集中させる。

 組織の情報をすべて自分に集中させ、部下同士を連携させずに競わせることで自分を唯一の決定権者にする。機能的なので利点だという人もいるが、問題は専門性が破壊されること。忠誠心だけが求められ、宇宙の中心であるトランプに異議を唱えられる専門家が周りにいない。

2.     2,パンチでスタートする。

 話し合いの前に相手を攻撃して圧倒し、恐怖や混乱を与えて交渉の主導権を握る。中国に対し関税を145%に引き上げると突然発表する。イランには数千年に及ぶペルシャ文化を破壊すると脅す。初めに血を流させれば、そのあとに何をしても合理的に見えると思い込んでいる。

イランについていえば、イギリスで食い詰めた難民が新大陸に渡って原住民を追い落として独立し、250年しか歴史を持たない移民大国が、アケメネス朝、ササン朝ペルシャなど数千年の歴史をもつイランに、交渉力でも勝てるわけがないと思っていたら案の定。休戦はいいことだ。

3.    3, 騒音の壁 

 目まぐるしくニュースを変え、注意をそらし、目くらましする。

ベネズエラのマドウロ大統領を拘束した際、差し迫った脅威などなかった。オバマ元大統領夫妻を猿に見立てて侮辱するSNS投稿も衝動でやったわけではない。次々に話題を変えメディアはそれらを必死に追いかける。不都合なニュースは新しいノイズでかき消す。注意そらしの名人といえる。対イラン戦争で38回も交渉は合意したと発信したが事実ではなく、それらは自ら儲けるための株や債券取引のインサイダー情報ではないかと疑われた。

4.     4,虚偽情報を何度も繰り返し、人に信じさせる

 ベネズエラでは元大統領一人を排除しただけで「体制転換」と呼んだが、実際は何も変わっていない。「ハイチ移民は犬を食べている」という発信は、州知事、地元市長、住民がことごとく否定しても、米国人の4人に一人は信じるようになった。

5.     5,分断統治

 意図的に対立を生み出してバラバラになった勢力を個別にコントロールして自分の支配力を高める。

6.     6,流動的友情

 その瞬間に利用価値があるかどうかだけで敵と味方を自在に入れ替える。

同教授によれば、「非を認めない、謝罪しない」などのルールは若いころの助言者・弁護士に教えられたらしい。「ハンマ―しか持たない人にはすべてが釘に見える」と米国ではいわれるが、トランプ氏はのこぎりやドライバーが必要な場面でもハンマーしか持っていず、釘をたたきまくるということか。

 いやしくもアメリカ合衆国の大統領である。

古代中国の伝説の三人の聖王「堯、舜、禹」の時代のように、論語にいわく「政を為すに徳を以ってすれば、例えば北辰の其の所に居て収入衆星のこれをめぐるが語とし」といった政治がおこなわれることは永久にないのであろうか。