真 山民 「現代損保考」
しん・さんみん 元損保社員 保険をキーに経済、IT等をreport
三井住友海上の「スキル型人事制度」と大企業の「黒字リストラ」
日経が報じた三井住友海上の「スキル型人事制度」
「三井住友海上、スキル軸の人事制度 ジョブ型の修正で組織硬直化防ぐ」。こうした見出しで日経新聞電子版が「三井住友海上スキルを評価基準とする新たな人事制度を導入」と報じたのは1月29日である。以下、記事は次のように伝えている。
「三井住友海上火災保険が社員のスキルを評価基準とする新たな人事制度を導入した。昇進・昇給とリスキリング(学び直し)を連動させ、専門性を高める。一方でキャリアの硬直化を防ぐため、定期的な異動や職種転換も促す。近年は職務内容を限定する「ジョブ型」制度を導入する企業が増えているが、これに修正を加え、人材の流動性も確保しようという試みだ。」
日系金融機関初の「スキル型人事制度」
三井住友海上が、この人事制度を導入したのは昨年の4月である。同社のホームページに掲載されている「人事改革 『スキル型人事制度』の導入」によると、この人事制度は「日系金融機関として初めて導入する」ものであり、「スキルを通じた相互につながる力でお客様本位」を実現し、「人財育成だけではなく、人事考課、報酬、異動、昇進など、すべての人事制度・運営に関して、スキルの習得・発揮を評価基準として重視する」制度だという。
では、従来の年功的・会社主導・ゼネラリスト志向の人事制度とスキル重視・社員主導・プロフェッショナル志向の人事制度は、どう違うのか?同社のホームページに載っている「人事改革 『スキル型人事制度』の導入」の説明には、二つの人事制度を比較した詳細な表が載っている。要約すると「スキル型人事制度」とは、グループの多彩な業務を28のジョブに分類したうえで、その担い手となる74種類の「プロ人財」と、必要とされる約800のスキルを定義し、異動や昇進、昇給など全人事をスキルの習得・発揮にひも付けた制度ということになる。
制度の基礎となるスキルデータベースは、社会保険労務士や中小企業診断士などの資格に加え、「適切な調査に基づく損害認定」など具体的な業務遂行力も含まれており、仕事のレベルに応じて細かく設定。毎年の昇給水準もスキルと連動する。
日経によると、「『スキル型人事制度』を契機に社員の意欲が高まっている」とのことである。例えば、営業支援部門に所属する女子社員が「法人向けの労務管理助言サービスなどに携わりたい」と考えてチャレンジ、「キャリアの方向性も明確になり、資格試験への意欲も高まった」と語っている。
スキル型人事制度・人員抑制・代理店手数料体系を一体に進める
ここで考えなければならないのは、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(HD)が昨年11月に発表した「2031年3月期までの経営目標」とスキル型人事制度との関連だ。「目標」は、国内損害保険事業は採用抑制などにより人員を1割減らし、コスト削減を進める。成長に向けて北米を中心に海外事業を伸ばし、31年3月期の修正利益(政策保有株の売却益除く)を7260億円と、26年3月期予想比で65%増やすというかなり欲張った計画を立てている。
人員についても、27年4月に三井住友海上火災保険とあいおいニッセイ同和損害保険が合併するのに合わせて、2社を中心とした国内損保事業の約3万4000人程度を採用抑制や定年退職による自然減で4000人ほど減らす計画だ。
投資家向け説明会で、MS&ADホールディングスの船曳真一郎社長は「社員が最善の働き方ができるように早期退職支援制度も導入する」と語った。550億円の人件費の削減効果を見込むほか、代理店の手数料体系の見直しなどで500億円、システムや商品の統一などで450億円のコスト削減も計画する。
早期退職支援制度とスキル型人事制度を並行して進めるという三井住友海上の人事政策は、第一に、働き方の多様化とデジタル化の進展、少子高齢化やITの普及、テレワークの広がりにより、場所や時間にとらわれない働き方が広がっていること、第二に、働き手不足によって、企業は限られた人材を最大限に生かす必要があり、多様で柔軟な働き方を認めることが課題となっていることを反映した政策ではある。早期退職制度が以前ほど、企業が一方的に従業員の事情や希望を無視した冷酷なものとは受けとめられていない面もある。
それでも、第一生命、三菱電機、パナソニックHD、三菱ケミカルグループ、明治HD、ソニーグループ、日清紡HD、マツダなど大企業各社が進めている「黒字リストラ」は、好業績の企業による大幅な人員削減で、もっぱら中高年(ミドルシニア)を対象にしたものだ。三井住友海上の早期退職制度もそうだし、そして「スキル型人事制度」が若手社員に重点を置いている限り、二つの人事政策の並行が、「社員が最善の働き方ができる制度」という船曳社長の話には疑問がわいてくる。
製造業も金融保険業も競争力強化が急務で、事業改革に追われている。日本経済をけん引し、雇用の代表的な受け皿でもあった企業は、大きな転換期を迎えているし、賃上げも行わなければならない。将来性が乏しい事業部門の大胆な見直しや新規事業への進出など、構造改革と人事政策が一体となって動かなければならない環境に置かれていることから、三井住友海上の「スキル型人事制度」と人員抑制、そして代理店手数料体系の見直しは、三位一体として進められると見なければなるまい。
さらに付け加えれば、「スキル型人事制度」が、高市首相がかねて掲げ、2月20日の施政方針演説でも強調した「裁量労働制の見直し」につながるのを警戒する必要がある。高市首相は「成長のスイッチを押して、推して、押しまくる」という言葉とともに、裁量労働制を経済成長戦略の一環と位置づけた。「スキル型人事制度」が裁量労働制と一体となって進められる恐れは十分あり、そうなれば労働者がどういう状態に置かれるか、労働者自身も労働組合も予測しておかなければならない。