前田功               昭和サラリーマンの追憶

                                                                                

  

                                がんばれキューバ

       


 

 

 まえだ いさお 

元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表 


 高校時代の友人に、外語大へ進んだ男がいた。ギターがうまく、よく互いの家を行き来した。彼は大学でスペイン語を専攻し、学生になってからギターを抱えて中南米を数カ月旅した。帰国後に聞いた土産話の中で、私の心を強くつかんだのがキューバだった。彼が旅したのは、1959年のキューバ革命から数年が経ち、社会が落ち着きを取り戻した頃だった。

 当時のキューバはサトウキビが主産業で、農園の多くはアメリカ資本に握られていた。キューバの富裕層もいたが、国全体としてはアメリカの強い影響下にあり、いわば半植民地的な構造だった。

 そこにフィデル・カストロが革命を起こし、外国資本や富裕層が所有していた農園を国有化した。農園で働いていた人々は国有企業の従業員となり、社会の仕組みが大きく変わった。

 友人はキューバで見聞きしたことを、興奮気味に語ってくれた。

 「役所で働く人も農園で働く人も給料は同じなんだ」

 「医療は無料。教育も大学まで無料」

 「とにかく平等が徹底している」

 その言葉を聞きながら、私はキューバという国に強い親しみを覚えた。単なるイデオロギーではなく、「富の偏在を許さない社会」への憧れが、若い私の胸に灯ったのだ。

 キューバは、ソ連崩壊後に多くの社会主義国が体制転換する中でも、社会主義を掲げ続けてきた。社会主義と聞くと、寒くて薄暗い東欧のイメージを抱く人が多いが、キューバは違う。陽光が照りつけ、音楽があふれ、人々の表情は明るい。

 私の中では、社会主義のもう一つの姿を示す国として、ずっと特別な存在であり続けている。

 キューバを語るうえで忘れてはならないのが、「医療」と「教育」だ。革命後、キューバは国の資源を徹底して人材育成に振り向け、医師と教師を大量に育てた。医療も教育も無償で提供し、貧しい家庭の子どもでも大学に進める。医師の数は人口比で世界トップクラスになり、乳児死亡率は先進国並みに低い。

 さらにキューバは、医師団を世界各地に派遣する「医療外交」を続けてきた。ハイチ地震の際には真っ先に医師団を送り、エボラ出血熱の流行時にもアフリカに多くの医療スタッフを派遣した。豊かではない国が、持てる力を「人を助けるため」に使う。その姿勢に私は敬意を抱いている。

 もちろん、キューバは常に順風満帆だったわけではない。

 キューバとアメリカ(フロリダ)の最短距離は約140〜150kmで、地理的には非常に近く、海峡を挟んで目と鼻の先に位置する。マイアミからハバナまでは飛行機で約1時間。この距離は、東京から草津温泉や仙台までの距離に匹敵する近さだ。

 革命で国外に出た元富裕層の多くは、アメリカ・フロリダ州に移り住んだ。アメリカの対キューバ政策には、こうした亡命コミュニティの影響もあると言われる。トランプ政権の国務長官マルコ・ルビオ氏は、キューバ移民の2世であり、キューバの体制転覆が彼の永年の願いだと目されている。

 ベネズエラは石油を供給し、キューバは医師や教員を派遣する。互いに不足を補い合う関係だった。トランプは石油権益を狙ってベネズエラ大統領を拉致するという暴挙に及んだ。結果、キューバは深刻な燃料不足に陥っている。

 キューバ政府は対話の用意を示しつつも、体制転換を迫る圧力には断固として反対している。小さな国が大国の圧力に耐えながら、自らの道を守ろうとしている姿に、私は肩入れしたい。若い頃、友人から聞いた平等が徹底したキューバの明るい風景が忘れられない。

 

 今回の衆院選の結果が示した日本の若い世代の政治意識に、私は違和感を抱く。

 高度成長期を働き抜いた昭和サラリーマンとして、私は「努力すれば報われる」という物語の裏側に、どれほど多くの“見えない支え”があったかを経験してきた。税制も社会保障も、弱い立場の人を支える仕組みがあってこそ、社会は安定する。

 ところが近年は、富裕層や大企業に有利な政策が「成長のため」と称して語られ、それを若い世代が素直に受け入れてしまう。これが危ない。

 小泉純一郎が「自民党をぶっ潰す」と叫んで自民党を大勝利させた後、進んだのは「非正規雇用」の緩和。結果、不平等が蔓延した。今回の自民の勝利は、何をもたらすのだろう。怖い。

 

 日本も、平等で明るい社会にならなければ・・・。

 そのためにも、キューバにがんばってほしい。