座談会「現代損保考」
参加者 =編集委員12名
学生の就職先選択の変遷と損保の仕事を考える(その2)
損保内での仕事の選択肢
ま/ 損保の中での仕事の選択肢が広がっていること、そしてそれぞれの部門の魅力、やりがいなどについて、みなさん、もう少し議論を深めませんか。
B/ そうですね。
こ/ 選択肢は以前に比べて確かに増えているように見えますが、選べる自由度が問題でしょう。
O/ 選択肢そのものだって少ないでしょ。その上希望部署に配置されるかといえば、運みたいなもので、そううまくいかない。営業はいやだといってもダメでしょ。営業を敬遠する学生は多いみたいだけど。
駿/ イケイケどんどんの体育会系なら、数字を追求する意欲は高いかも。実績を挙げるには営業は格好の舞台じゃないですか。
亀/ だけど、損保の営業というと、生保レディのようなノルマ産業的なイメージが残っていて…
ま/ いずれにせよ、営業のない産業、企業はないよ。そこで食っていくわけだから、営業イヤでは損保には入れない。
M/ 損保の営業というのは、代理店を経由して保険を売る仕事だ。ただ、ネット上では最終のお客さんに接触する直販社員や生保レディなどと区別がつかないような表現で紹介されているものも多くあるため、「飛び込み訪問」や「チラシ配布」をやらされるとか、給料は「歩合給」だとか、勘違いしている学生もかなりいるようだ。この勘違いは今も昔も同じだ。
B/ そういうイメージとして定着している理解も、損保営業の負の部分を反映しているわけだから、損保側の反省の材料とすべき点でもあると思う。
雪/ 選択肢というと、新人の学生や、社員が、いかにも自由に部署が選べるみたいにも聞こえますが、現実は違いますよね。
こ/ そこは大事なポイントですね。例えば、営業と言ってもビッグ・モーターズのように、社員が先方の仕事を代行するために派遣されているケースもある。これって、社員の自由意思による選択ではなく会社による指示・命令の結果でしょう。選択の自由より、そうした人事権の方が優先する。企業内の秩序の方がよほど強いことを忘れてはいけないと思います。
百/ 現場の実感としてしては、仕事選択の自由ってそんなにはないと思いますよ。
ま/ 最終顧客に接しないにしても、売り上げを伸ばすということは「代理店をうまく指導する」ということだ。そのためには、営業マンには代理店以上の保険知識が必要だ。つまり、保険知識の吸収能力と人に教える能力が求められる。学業優秀な学生はそういう能力が高いと思われる。そういう意味で学業成績が優秀な学生が損保を目指してきたという側面もある。
M/ 昔の営業は「誰それさんなら任せられる」という信頼関係がモノを言った。信頼してもらうために代理店や顧客企業に日参して御用聞きから始まる地道な関係構築が基本だった。いまなら義理人情営業と揶揄されるかもしれないが、知識だけでなく、営業マンの誠実さや人柄が契約の大きな判断材料になった。営業にも人間のぬくもりがあったと言える。営業には代理店担当と法人営業担当の二つのジャンルがあった。法人営業の方は法人の子会社である別働体代理店を経由するが、代理店の担当者は法人のOBが多く、保険知識を十分に備えた人が少なかったから、実際には保険会社の営業マンが最終顧客である企業の担当者と接する。ここでも、損保の営業マンの人間性がモノを言った。営業にも「人情のドラマ」があったものだ
M/ さっき、損保営業の負の側面や、選択肢の自由問題が言われたが、法人営業には、「政策株」問題もあるね。
か/ 昨年、金融庁は業界に対して「政策株を売れ」と命じた。政策株は資金活用面で非効率。株主重視でないというのが理由のようだ。
M/ もともと、株の持ち合いは法人営業の大きな力だった。それによって、「正しい」「まっとうな」主張が出来た面は否めない。それが政策株を売ることで営業マンは正論を言えず、保険料ダンピング競争が仕事になってしまったのではないか。
も/ 営業でまともに実績を挙げるというのも、社員個人の力量だけという風に単純に理解するわけにいかないんですね。
仕事のやりがい・魅力
B/ Mさんから営業部門における、本来の損保営業の「魅力」「やりがい」が言われたが、損害調査部門はどうでしょう。営業と損害調査は損保事業の二本柱です。
駿/ 私は勤務先が損害調査中心の会社だから、当然仕事は損害調査一筋だが、損害を調査すること、保険金を支払うことにはやりがいを感じてきましたよ。人のために尽くすことには充実感があります。
こ/ ある損保の先輩のことですが、学生時代に「ひとりは万人のために、万人は一人のために」という言葉に出会って大変感動し、損保はそういう仕事なんだと教えられた。そして、実際にあこがれの損保に入社できて、損害調査の部門に配属され、これこそ天職と思って仕事をしてきた。数多の保険金支払いを経験する中で、「ありがとうございました。本当に助かりました」と深々と頭を下げられると、ああよかったな、損保に入って正解だったと思うと、言っています。
B/ これぞ天職というわけか。その方、今も同じように思っているのかな。
こ/ というより、入社してからの選択肢は他にたくさんあったとしても、結果として駿さんと同様、一筋の道になった、それ以外の選択肢はなかった、と割り切った上で、満足していらっしゃるのかも。
亀/ わたしも、入社以来火災新種の損害調査の現場に身を置いてきたが、火災の現場にスーツ姿、革靴で行き、真っ黒な煤と匂いをスーツに残しながら、誠心誠意お客様対応に当たった。入社して最初の火災現場は30年も前のことだが、いまもそのお客様の顔、氏名、住所、火災状況などリアルに覚えている。また、阪神淡路大震災のときに2ヵ月間被災地を巡りめぐって地震保険の支払い対応に当たった。貴重な体験だが、こうした仕事が損保の原点だし、自分自身が誇りを持って仕事のやりがいを訴えられるポイントだが、いまは、システム化が進みすぎ、あまりにも現場が遠くなった。社員が誇りを実感できる場面が殆どなくなったのではないか。
B/ 先ほどからうかがっていると、損保の中での仕事の選択肢の多寡や、その保証があるかどうかも含めての問題も重要だが、その仕事に込められた「やりがい」、社員にとっての「働く意味」とかを実感できる仕組みができているかどうかが議論の肝だと聞こえる。経営者側に十分に対応する力量もその気もないことが残念だ。ひとつの部門でダメでも、他の部門で生かそうという柔軟性が欲しい。社員の能力を深く理解する、あるいは信じることが出来ていないのではないか。それは命令を本質とした人事制度の硬直性となって表れている。私はそういうことで悩んで辞めた人を何人も見てきた。人材はいるのに、それを活かしきれない企業の側のソフトウェア―、企業ガバナンスの問題が大きいと思う。
M/ 今の時代、損保マンはあーだ、こーだと言われてマニュアルが作られ、そのマニュアル通りにしかやらせてもらえないように変わってきている。営業マンでも、かつては、マニュアルやプロセスに縛られず、その場その場で自分なりの工夫が出来た。必要であればルールを柔軟に運用し、顧客に寄り添う柔軟な対応が出来た。個人の裁量での柔軟な判断が許されていた。いまなら「コンプラ違反」と言って非難されるかもしれないけど。
百/ そうした当時の「ぬくもり」を損保業界に取り戻すためには、どうしたらいいんでしょう。
自己研鑽の風土
亀/ 1996年から始まった損保の自由化の少し前に入社したが、そのときは、まだ損保らしい研鑽の風土が残っていた。入社2年目には損保講座を受講することが業界の慣例になっていた。東京と大阪の損保協会のビルで夕方7時頃からやっていたが、勤務地がかなり遠くの社員も通っていた。損害論の基礎や、保険約款の仕組み、自動車、火災、海上、傷害、賠償責任、新種などの基礎、再保険論の基礎について講義を聞いて試験を受けるということが、2年目社員全員に課せられていた。仕事がどんなに忙しくても、まずは勉強するのが当たり前という風土があった。自己を磨くという気風ですね。
B/ それに、尊敬できる人が少なくなった。私たちが若いころは、「ああ、こういう先輩のような人間になりたいな」という社員が自社他社を問わず、いたものだが。
M/ それは、会社が人材育成を重視しなくなったことに起因する。昔は仕事を通じて後輩は先輩から学び、先輩や上司は部下や後輩を育てた。人材育成は仕事そのものだった。その過程で信頼関係も築かれた。そこに人間味があった。それが軽視されるようになった。
亀/ 会社は言葉の上では人材育成を言っているが、カネも時間もかけない。「『人材』ならぬ『人財』扱い」ではないかと、皮肉を言う人もいる。
京/ そうした実態については、学生の情報収集能力は鋭いと思う。
駿/ 直近のある新聞に「親カクより親オシ」という記事があった。就職先を決めるには、親の確認を取るより、親の推しで、という意味らしい。親子二人三脚でSNSなどによる情報収集に努めているという。さきほどの御用組合論も含めて、これから就職しようとする学生たちの企業情報に関する感知能力は極めて鋭い。
も/ むしろ、現役より正確に職場の状況を把握していたりして…
仕事の本質を問う
B/ さて、ここまで、その学生たちの損保への眼差しも念頭に置きながら、今の損保や、その職場には何が足らないのか。損保の仕事とは何なのか。そもそも働くとは、仕事とはどういうことなのか。などを考えてきました。職場に復元すべきは亀さんが指摘したような、「自己研鑽の喜び」。Mさん指摘の「人のぬくもり」。尊敬できる「人」が居なくなったということは、そういた風土が失われているということでしょう。損保を魅力ある事業、職場にするためにはそこが大切なキーだと思います。職場の誇りにしたいと確認したのは、損害調査の現場で実感したという国民への奉仕の「やりがい」。それらは、現在の在籍損保マン(ウーマン)たちだけでなく、これから損保の門を叩こうとする若い学生たちも含めた未来の損保の人々の宝となるような業界・企業・職場を作っていくうえで、大切にしていきたいものです。その中には、損保産業自体がどの範囲まで事業を拡げていくのか、も問われるという問題も含まれるのですが、こちらは認可事業ということもあって野放図にはいかないし、自ずと限界がある。また、我々としては、そこを前提にした議論をするのは適当でない。やはり、Mさんが主張したように、原則的には地道な損保事業をベースに国民とともに歩んでいく。そうしたスタイルを本筋としたスタンスに立ちつつ、先ほど来指摘してきた課題を改革・実現していく、ということだと思います。
仕事=金銭?
B/ ところで現在、政府や経営者団体などの間で、「解雇金銭解決方式」導入が進められています。つまり、そこに込められているのは、労働者の解雇が「無効」であろうと、必ずしも「職場復帰」を労働者側の権利として認めないという発想です。「仕事をする喜び」「誰かのために役立つことへのやりがい感」などを労働者の権利として認めない。すべては金銭で代替できるという考え方です。経営者の雇用を守る規範の崩壊が懸念されますが、黒字リストラが続く今、この制度を導入すれば一体どうなることか。行きつく先は荒涼たる社会です。」こうした風潮のなかでは、今日論じられた自己の人間としての成長とか、国民奉仕への喜びなどは、企業や、仕事の中に求めるのは、およそ筋違いということになる。もちろん、職場は索漠たるものになる。損保事業そのものも衰退する。その一方、学生が職業や仕事に対する選択肢を広げ、そういう企業、職場を望んでいるという現状は、「解雇金銭解決方式」みたいな考え方への抵抗でもあると思うのです。現実に、学生たちがアンケートに対して答えているのは、就職先で「自己の成長」「社会の役に立つ」ことを望んでいる。だとすれば、損保の現場にいる私たちが、学生の要求と共鳴し合って、仕事のやりがいとか、働く意味などについて、内容の濃い議論を踏まえて、各課題を充実させるためにたたかい、損保の事業、仕事に本当のやりがい、を求めていかなければならない。その方向に事態を動かせる可能性は十分あると思う。それを確認しあって本座談会を終わりたいと思います。みなさんご多忙中にもかかわらず揃ってのご参加ありがとうございました。(完)