テレビ局の愚行


           玉木 正之        


 たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)


 

7月23、24日に行われたプロ野球オールスター戦をテレビで見ていて仰天した。

 試合中の守備についている選手にマイクとイヤホンを付けさせて、アナウンサーや解説者のインタヴューに答えさせた(会話をさせた)のだ。

 その様子にあぜんとした私は、まず「危ない!」と思った。アナウンサーと会話している野手のもとへ、強烈な打球が襲ってきたら……と思うと心配でならなかった。

 が、すぐに、プロの選手なら、その打球を避けることなど簡単だろう、と納得したものの、それはファインプレイを放棄することになる! という思いが巡った。

 要するに、プレイ中に会話を交わす(テレビに出演する)ことは、「プレイの手を抜く」ことに他ならないのだ!

 オールスター戦だからと言って、観客に素晴らしいプレイを見せることが仕事のプロ野球選手に、そんな「手抜き行為」は許されないはずだ。

 かつて阪神のエース江夏豊投手は、オールスター戦で9打者連続奪三振というすごい記録を樹立した。その記録に挑戦した巨人の江川卓投手は、残念ながら一人足りない8打者連続三振に終わった。

 またパ・リーグの本塁打王野村克也捕手は、セ・リーグのホームラン打者王貞治選手が打席に立つと、投手を巧みにリードし、39打数3安打、打率はわずか7分7厘。本塁打0、打点0に押さえ込んだ。

 こういう見事な対決こそ「夢の球宴」の醍醐味(だいごみ)なのに、投手にまでマイクを付けさせ、試合中の会話を「臨場感」と自画自賛したテレビ関係者は、野球の真の魅力に無知な情けないやからとしか思えなかった。

 おまけに今年の「スター選手」はホームランを打たれて苦笑いする投手や、凡打に倒れて失笑する打者が続出。プロ野球は堕落したのか?