雨宮処凛の「世直し随想」
国はまず謝罪を
あまみや かりん 作家・活動家。フリーターなどを経て2000年,自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年,太田出版/ちくま文庫)で日本ジャーナリスト会議賞受賞。
「最高裁で違法と認められたのに、謝罪もせず、違法状態を続けるんですか?」。7月7日、厚生労働省の一室にそんな言葉が響き渡った。 この会合は、その10日前の最高裁判決を受けて持たれたもの。生活保護引き下げを違法として利用者が国を訴えた裁判の判決だ。 2012年に巻き起こった生活保護バッシングの中、自民党が掲げた「生活保護1割削減」という公約。その年の瀬の選挙で政権に返り咲いた第2次安倍政権がまっ先に手をつけたのが、最後のセーフティーネットの切り崩しだった。 結果、ただでさえ苦しい生活保護利用者の暮らしは大打撃を受ける。「もう生きていけない」「食事の回数を減らした」「電気代が怖くてエアコンをつけていない」「兄弟の葬式にも行けなかった」などの悲鳴があちこちから上がった。そんな中、全国の利用者たちが原告となり、生活保護基準引き下げは違法だとして国を提訴。全国29地裁で31件の訴訟が行われ、今年6月時点で原告側の27勝16敗(地裁20勝11敗、高裁7勝5敗)。そしてとうとう最高裁で原告が勝訴したのだ。 しかし、厚労省は謝罪すらせず、引き下げを正当化するためか、専門家会議を立ち上げると言い出した。それに対し、原告、弁護団が3度の交渉を持つもののゼロ回答。「きょうだい訴訟」の優生保護法裁判の際は、原告勝訴の翌日には大臣が謝罪したのに、である。 約10年にわたる裁判の中で、最大1027人だった原告のうち、すでに232人が亡くなっている。国は、まず謝罪してほしい。