守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


 

      父の13回忌 

 

 7月11日金曜日の経産省前。道路の向こう側では、相変わらず「財務省解体」を叫んでいる人たちがいた。彼らの多くは外国人を排除する政党支持者だから、私は敢えて参政党を名指しで批判するスピーチをした。低賃金で働く外国人がいるから日本人の賃金も上がらないというけど、その賃金を決めているのは日本の雇用者ではないか。この国で日本人以上に優遇されているのは、米軍関係者だ。外国人に土地を売るなというなら、米軍基地の返還を求めるべきだ、云々。

 その帰りの電車の中でスマホの着信音が4回続けて鳴った。取り出してみるとWhats App (ヨーロッパで普及しているLINEと同じようなSNS)に『Instagramでふくりしょくいんさんがあなたについて言及しました』と書かれていた。心当たりがないし、そもそも私はインスタグラムをやっていない。Whats App はドイツの親しい友人とだけしか使わないし、彼らは誰も日本語ができない。なんだこれ?

 送信者が不明なSNSは一切見ないことにしているので無視していたが、その後もピン、ピンと鳴り続けた。うるさいから着信音が鳴らないようにして放置し、翌朝見たら約12時間に91回もの着信があった。タイミングから推測すると、私のスピーチに対する嫌がらせかもしれないと思い若い同僚に尋ねたら、インスタグラムから他人のWhats App を乗っ取ることは可能だという。同僚はスピーチとは関係なく、偶然ではないかと言ったけれど、090は当たるかもしれないが、その後の8桁の数字をあてずっぽうに選んで私の電話番号になる確率はかなり天文学的数字になるのではないか。それよりも、ちょうど通りがかって私の発言を聞き反感を抱いた誰かが、手近にいた参加者に好意的なフリをして、「あの歌っている人は誰ですか」と訊ねて私の名前を聞き出した可能性の方が高いのではないか。でも、どうやって私の電話番号がわかったのか?ちょうど塩田武士の「踊りつかれて」というSNSによる誹謗中傷をテーマにした小説を読んでいたから、勘ぐってしまったのかもしれないけれど、あれこれ考えると暗闇で監視されているようで非常に気持ちが悪かった。

 翌週も同じような発言をしたけれど何事も起こらなかったから、私の思い過ごしだったのかもしれないが、最近はアナログ人間には分からないことがどんどん増えている。技術的なことばかりでなく、どうして人を闇討ちするような卑劣な真似をするのか、人を故意に傷つけて何が面白いのか、その精神が理解できない。そんな嫌がらせくらいで口をつぐむ私じゃないぞと思っているけれど、不愉快であることは確かだ。モラルの崩壊が起きる時は、社会の安定も崩れていく。それが怖い。

 7月19日は、父の13回忌だった。総がかり行動の後、野党の演説会を駆け回り、合間に無名戦士の墓を訪ねた。仏教徒ではないから別に13回でも14回でも関係ないのだけれど、やはり命日には故人を偲びたいと思う。喧嘩ばかりしていたけれど、父から教わったこともたくさんある。自分の権利を行使すること、自分ばかりでなく他者の人権を守るために闘うこと、平和を守ること。今考えると、子どもの頃に教わっておいてよかったと思う。参院選の結果は予想以上に酷かったけれど、打ちひしがれてはいられない。社会のモラルが崩れても、人間として変えてはならないことがある。それを守り抜こう。