フォーミュラEと空飛ぶクルマから考える自動車の未来
玉木 正之
たまき・まさゆき スポーツ文化評論家,日本福祉大学客員教授。著書に『スポーツとは何か』(講談社現代新書)など多数。近刊は「真夏の甲子園はいらない 問題だらけの高校野球」(編・著、岩波ブックレット、2023年)
4月17、18日、東京のウォーターフロント有明ビッグサイト付近の公道を使って、フォーミュラE(FE)の世界選手権が行われた。FEとは蓄電池式(バッテリー)電気競走車のこと。
ガソリンを使ったF1の最高時速が約380キロ。FEは時速約320キロ。しかしコーナーでのモーターの加速などでガソリン車を上回る部分も多く、もちろん排気ガスはゼロ。将来的には、自動車レースはすべて電気自動車になると断じる人も多い。
それに対して心配な自動車は、大阪関西万博で部品落下などの事故のため運休を続けている「空飛ぶクルマ」だ。
「空を飛べないクルマ」なら道路を走れば…とも思うが、ボディーの周囲に大量のプロペラを付けたクルマが、一般車に混じって公道を走れるとも思えず、そもそも「空飛ぶクルマ」は「性能の劣る飛行体と性能の劣る自動車の組み合わせで、成功しない」と断定する科学者も多いらしい。
万博の「空飛ぶクルマ」のPR映画では、朝寝坊して会議に遅れそうになった会社員が「空飛ぶクルマ」に乗って悠々間に合う場面がある。が、未来社会でも定時に出社しなければならない会議が存在するだろうか? 現在でもリモート会議は常識で、未来では仮想会議(バーチャルミーティング)での分身(アバター)の参加が進むはずだ。
手塚治虫の『鉄腕アトム』や『スターウォーズ』では、未来社会で「空飛ぶクルマ」が登場する。が、漫画や映画でなく「現実的な未来社会」では、「空飛ぶクルマ」は離島間の救急ヘリのような使用に留まるのではないだろうか?
そして「クルマの進化」は、「空を飛ぶこと」よりも、フォーミュラEのようなクルマの蓄電池が、半永久的再利用が可能となる進化や、完全無事故となる自動運転システムの開発…に向かうのでは?