「女性の過労死」(7)
巻き込まれる男性
竹信 三恵子
たけのぶ みえこ 朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。
2023年、千葉県内の病院に就職した男性新人看護師(当時22歳)がメンタル不調を発症し、それが自殺につながったとされる事件が起きた。翌年、遺族が労災申請したが、その際の意見書などによると、退職による人員不足や、指導体制・フォローの不備、上司とのあつれきなどが重なり、就職した年の10月、自宅で自殺したという。
遺族側の弁護士は「過重負担などによる強度のストレスがあったのは明らか」と説明。現役の看護師でもある母親は「同じことが二度と起きてはいけない。安心して仕事ができる社会になってほしい」と話したという。
2013年に自殺した北海道の病院の男性看護師(当時36歳)については、パワハラなど職場のストレスが原因だとして、両親が、労災を認めなかった国の処分取り消しを求めて2018年に提訴している。
男性はミスが続いて悩んでおり、「(医師から)『お前はオペ室のお荷物だな』と言われて確信しました。成長のない人間が給料をもらうわけにはいきません。本当に申し訳ありません」と書き残している。
前回も書いたように、女性が多い専門職は、「女なら誰にでもできる簡単な仕事」として仕事の負荷が軽視され、また、「女性は利他的」を前提に人手不足を埋めて良質のサービス提供を強いられがちだ。
しかも、こうした偏見は働き手の口を封じ、不当な要求に対抗しにくいシステムを生み、人員削減の横行を許す。先輩看護師や直属上司も忙しすぎて新人は相談すらできない。
そこに「逃げない性」をたたきこまれてきた男性が進出したとき、出口はない。男性看護師の進出が目立つ中、女性への社会的抑圧が男性をも追い詰める状況がそこに生まれる。