真 山 民「現代損保考」
しん・さんみん 元損保社員。保険をキーに経済・IT等をレポート。
大手損保4社の行政処分を受けて保険業法、保険監督指針が改正
ビッグ・モーター問題発覚から4年経つが・・・
ゴルフボールを靴下に入れて振り回し、修理車を壊す、紙やすりでボデイにこすったような傷をつけ、損害を膨らませて自動車保険金を過大に請求するという悪質な行為が、ビッグモーター(BM)の酒々井(しすい・千葉県印旛郡)工場の板金工によって日本損害保険協会の「保険金不正請求ホットライン」に告発されたのは、2021年1 1月11日である。
この事件で、金融庁は2024年1月に損保ジャパンと親会社SOMPOホールディングスに業務改善命令を出し、当時のSOMPOの桜田謙悟会長兼グループ最高経営責任者と損保ジャパンの白川儀一社長は退任に追い込まれた。
損保ジャパンの白川儀一社長が、この事件を知ったのは2022年5月、大手損保3社の東京海上日動火災保険の広瀬伸一社長、三井住友海上火災保険の船曳真一郎社長と会合したのが2022年5月16日というから、BMの板金工が損保協会のホットラインに告発してから、この時点ですでに半年を経過している。
広瀬社長と船曳社長が「きちんと対応しなければ大変なことになる」と迫っても白川社長は「全然知りませんでした」と答えたという(『損保の闇 生保の裏 ドキュメント保険業界』柴田秀並 朝日新書〕。同社の経営体質、都合の悪い事実が営業や損害査定の現場から経営者まで上がらない体質を象徴している事実である。しかし、こうした同社の経営体質、契約者や消費者より自社の利益を優先し、そのためには営業の成績や損害率、収益を第一とする風潮は、生保・損保を問わず共通している。
情報漏洩、保険料カルテル疑惑、次々明らかになる不正行為
金融庁のホームページには、「行政処分事例集」という資料が掲載されている。「行政処分」について、金融庁は、銀行、保険、証券、信販会社など「金融機関等の業態や規模の如何、外国企業であるか国内企業であるかを問わず、法令に照らして、利用者保護や市場の公正性確保に重大な問題を発生しているという事実が客観的に確認されれば、厳正かつ適切な処分を行っている」と説明している。
しかし「事例集」には、2002年(平成14年)から2024年(令和6年)まで大小、2780件がエクセルで公表されているが、昨年同庁が下した大きな行政処分である大手損保の情報漏洩と、企業や官公庁の火災保険などの保険料に係る調整(カルテル疑惑)に対する処分は載っていない。
特に情報漏洩は、①その件数が膨大であること─主に自動車ディーラーが漏洩した契約者情報の約226万件、に加え、②メガバンクや地方銀行、大手上場企業などに出向していた損保社員が契約情報だけでなく、他社の契約引き受け基準、さらに代理店の会議資料、社外秘の業務資料、人事情報、銀行の預金者や融資先のリストまで、出向元の損保に横流ししていた。漏洩にかかわった出向者の数は4社合計で262人、約34万件に上るというから、手口の悪質さといい、件数といい、事は重大である。
大手4社は、保険料カルテル問題で 2023年12月に金融庁から業務改善命令を受けたほか、2024年10月には公正取引委員会からも排除措置命令と課徴金納付命令を受けている。1年余りで3度にもわたって、4社がそろって行政処分を受けるというまさに異常事態だ。損保ジャパンにいたっては、旧ビッグモーターによる保険金不正請求問題をめぐる行政処分も受けており、1年余りで処分は実に4度目となる。
金融庁は保険業法と監督指針を改正 損保協会は代理店評価機関を立ち上げ
5月30日、改正保険業法が成立した。前回の改正は2014年(施行は16年5月)。損保大手4社と自動車ディーラー、金融機関、大企業の別動隊代理店がそろって手を染めた一連の不祥事を受けて、11年ぶりに保険業法が改正されるわけだが、同時に金融庁は、保険会社を検査、監督する際の基本的な考え方や評価項目などをまとめた「保険会社向けの総合的な監督指針(保険監督指針)」も改正する。
金融庁の動きに呼応して、損害保険協会も保険代理店が自立した業務運営が出来ているかを評価する評議会を立ち上げる。業界共通の評価基準をもとに業務水準が不十分な代理店を抽出し、損保に適切に指導することを求め、代理店の実務能力の向上を促し、不祥事の再発防止を進める。
金融庁による保険業法と保険監督指針の改正、損保協会が立ち上げる代理店評価機関という過去例を見ない大改革が、顧客の意向に沿った保険販売を行う土台になるのか、またディーラーや金融機関、大企業の別動隊といった大型代理店に対する手数料の優遇や、自動車などの物品販売などの便宜供与をなくすことにつながるのか。さらに、特に専業のプロ代理店の手数料を保証し、地位向上につながるのか。来月号では、代理店の声を聴きながら、そのことを検証してみたい。