暇工作  メモは重要なエビデンス

       ひま・こうさく 個人加盟労組アドバイザー        


 

 個人加盟労組に駆け込んでくるひとは、パワハラやセクハラなどの被害「証拠」を確保しているケースもある。密かに身に付けることのできるレコーダーは、誰でも手に入る。

 メモは古くからの手法だが、いまでも有効である。その場の状況をそのまま写し取るものではないが、日記のように事後思い出して記録しておくことは極めてたいせつだ。上司との面談の場合などもそうだ

「勤務先が残業手当を払ってくれない」と言って、相談に来た二人の若い女性がいた。ある診療機関に勤務しているのだが、院長独裁の職場で、院長が思いつけば、いきなり残業命令がでる。ところが、もう数か月間も残業手当が出ない。院長の残業命令は、うわべソフトだ。「○○さん、今日デートないよね。悪いけど居残ってくれる?」

「デートないよね」と勝手に決めつけ、一拍もおかず「居残ってくれる?」とくる。それをのぞけば家庭的でいい職場なのだそうだ。 だけど、背に腹は代えられない。二人でツテを頼って暇のところへ相談に来たという次第だった。

 こういう場合、二人に組合に加入してもらって、団体交渉をすれば簡単に解決する問題ですよ、と個人加盟労組について説明を始めたところ、たまたま別件で居合わせた顧問弁護団の一人K弁護士が、やりとりを漏れ聞いて「暇さん、わたしが行ってきましょうか。そのほうがより速いかも知れない」という。

 普段から、「まずは労働組合の闘いですよ」と一歩下がる、運動優先主義の先生だが、当事者が若い二人の女性となれば、例外もあるのか。ま、いいか、手間も省けるし。「では、とりあえずお願いしますか。」と組合加入の手続きも完了しないまま、弁護士に下駄を預けることとなった。

 数日後「解決しましたよ。二人分合計110万円、現金でいただいてきました」とK弁護士から電話。鮮やかな速戦即決。やっぱ、自信があったんだ、最初から。「残業時間測定でもめませんでしたか?」と聞けば、「メモがあったのですよ」という。年長の女性が、残業日と時間を几帳面にすべて手帳に書き残していた、それが武器になった。院長もそれを示されて全く抵抗せずにその場で現金払いをしたという。潔いことだが、折々ちゃんと払っておけばいいものを。「二人から手数料もらいましたか?」と聞けば、「ええ、規定通り」と明快。こうして労働組合の出番がなくなって、ちょっと残念だったが、まあ、それは成り行きというもの。手柄争いをしている場合じゃない。ただ、メモの威力を改めて確認することになり、労組の新しいデータ蓄積となったのは収穫だった。