組織風土が生む隠蔽と不正… いい子が平然と嘘を

 

 


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


 

 今年1月、森友事件に関して、赤木さんの奥さんが情報公開請求した文書の存否も明らかにせず不開示とした決定は違法だとした高裁判決があった。これを受けて、国は、この4月、森友学園側との土地取引に関する経緯を記した文書約2,000ページを開示した。1~382の番号が振られており、奥さん側は74の文書が欠落していることを指摘した。

 財務省は欠落を認め、「政治家関係者に言及しているものが多くを占めていると推認される」と説明。当時、朝日新聞は「国会で質問されないよう廃棄」と報じた。アベを含む政治家に絡む文書を廃棄したということである。公文書の廃棄は犯罪であり、歴史の改ざんと同じだ。

 

 アベが「私や妻が関係していたということになれば総理大臣も国会議員もやめる」と豪語した(実は嘘をついた)のが2017年2月17日。そして、当時理財局長だった佐川宣寿が「学園との契約締結時点で『事案終了』にあたり、記録はすでに廃棄している」と答弁したのが、1週間後の2月24日。だが、これも嘘で実際にはこの時点では記録は残っていた。アベが佐川に嘘を言うよう指示したかどうかはわからない。少なくとも佐川がアベに「忖度」し、嘘を言ったとは言える。財務省が今も嘘を言っているのなら、これら74の文書はどこかにあるのかもしれないが、本当に廃棄したのなら、この答弁の頃であろう。

 

 そして、この6月、新たに9000ページ近い文書が開示された。これには、土地の売却が明るみになってから改ざんに至るまでのメールや応接録、それに赤木さんが参考にしていた資料等が含まれる。アベのウソ答弁から始まり、不正・改ざんに悩み、ウツを発症し、2017年7月に病気休職(そして2018年3月自殺)までの赤木さんの苦しみが、今回開示の文書から読み取れるのではないか。

 

 不正をした者は罰せられるべきで、実際、財務省は文書改ざんを認めて佐川ら20人を処分した。しかし、処分だけで終わってはならない。その不正な行為をさせた組織風土を問わなければならない。最近、「財務省解体!デモ」に多くの人が集まっているそうだ。このような虚偽・不正・隠蔽が根づいた風土をただすためという面でも、解体されるべきだ、と私は思う。

 

 財務省に限らず、官庁や大企業のエリートたちの不正・隠蔽・虚偽に、多くの人がケシカランと怒っている。しかし、このエリートたちはもともと、嘘つきで、よくないことばかりやってきた人間ではないと思う。親からは、「嘘をついてはダメよ」と育てられ、「いい子」で育った。その「いい子」が、組織という枠組みの中で、嘘・隠蔽が当たり前にならなければ組織の中でエリートとなれない。「その組織の中では、『いい子』は平然と嘘をつく」「嘘・隠蔽がその組織の中での『正義』なっている」そんな組織が問題なのだ。

 

 私は娘のいじめ自殺の真相を解明しようとする過程で、教員たちの噓と隠蔽に苦しめられた。その教員たちも、家では普通のいいお父さんであり、いいお母さんなんだろうと思った。官庁や大企業のエリートだけではなく身近なはずの教員もそうなのだということを実感した。個々人ではなく、組織風土が問題なのである。

 

 フジテレビの問題には、多くの人が関心を持った。それは、毎日見るテレビで近親感があったというだけでなく、自分が勤めている(あるいは勤めていた)会社でも起きうる問題であり、その組織風土と共通するものがあると感じたからだろう。

 かつてフジテレビは「楽しくなければテレビじゃない」というスローガンを掲げ、絶好調の時代を迎えた。しかし、その成功体験が、視聴率や数字を優先する体質を作り上げ、ハラスメントなんて些細なこととされ、繰り返され、それが組織風土となっていった。そしてその風土が、今回の騒動を呼ぶこととなった。第三者委員会の報告書によると、女性アナウンサーは、中居氏からの食事の誘いを断ると、将来の仕事に不利益が生じるのではないかという不安から断ることができずに被害に遭った。明確な指示・命令があろうとなかろうと、自分が不利益を被る懸念から、取りたい対応が取れない、言いたいことが言えない、といった組織風土が,フジテレビの職場にあったと言える。誰もが誰にでも言いたいことを言える組織風土だったらこんなことは起きなかった。

 

 損保ジャパンについても似たことが言える。かつては「野武士集団」を自負し、成功をおさめた。その結果、不正をしたり、不正を見ても見ないふりをしてでも、営業数字を上げようとする組織風土ができあがった。不正をせよとは言わなかったかもしれないが、数字が上がらないことを厳しくとがめられる風土が、現場はもちろん元社長の白川氏の判断をも誤らせた。

 

 フジテレビでも損保ジャパンでも、その組織風土を作った経営陣の責任が問われ、長く実質トップであった日枝氏や櫻田氏の退陣で幕を閉じたようだが、残った経営陣は日枝氏や櫻田氏が登用した人たち。組織風土を変えるにはかなりの努力が必要だろう。

 

 以上述べた通り、学校、官庁、大企業等どの組織においても、隠ぺいや不正・虚偽が常態化しているのではないか。多くのエリートたちは、もともとは「嘘をつくな」と教えられて育った「いい子」である。しかし、組織の中では嘘をつくことが「いい子」の条件であったりする。そんな組織風土は根本から見直されなければならない。