雨宮処凛の「世直し随想」
この国男政治のヤバさ
あまみや かりん 作家・活動家。フリーターなどを経て2000年,自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年,太田出版/ちくま文庫)で日本ジャーナリスト会議賞受賞。
選択的夫婦別姓の法制化がなかなか進まない。「選択的」とあるように、夫婦同姓がよければ同姓を、別姓がよければ別姓を選べるという制度なのに、そして、賛成する人の割合は83・9%にも上るというのに(国立社会保障・人口問題研究所などに所属する研究者の合同調査・23年)、はたまた財界も求めているというのに、一部の議員の反対の声が根強く、成立していない。
そんなことについて考えていたところ、衝撃的な数字を知った。
選択的夫婦別姓の法制化を目指す一般社団法人「あすのは」の調査によると、選択的夫婦別姓が法制化されたら婚姻届を出そうと待機している「別姓婚待ち」の人は、約58万人に上ると推計されるという。
これは衝撃的な数字ではないだろうか。選択的夫婦別姓が導入された場合のインパクトの大きさを確実に示すものである。というか国は、少子化とか未婚率の上昇とかをずーっと問題にしてきたわけだが、そのわりには、足かせとなるものを取り除こうとしてこなかった。しかし、こうして数字で見せられると日本社会にとって「いいことづくめ」ではないのか。しかも財界だって、旧制の通称使用はビジネス上のリスクになると政府に提言までしているのだ。
それなのに、一向に進まないこの問題。合理的な判断よりも家父長制的なものが幅を利かせているからなのか。「男のメンツ」的なものが絡んでいるのか。
ここが進まないという事実に、この国の政治のヤバさが詰まっている気がする。