「女性の過労死」

     

                     竹信 三恵子


 たけのぶ みえこ  朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。


  (6) 競争は質を上げるか

 

 前回、ケア市場に競争を持ち込めば質の悪い事業者は利用者に選ばれなくなり、競争に負けて撤退するのでサービスの質はよくなる、という論を紹介した。そこで働く人たちも、利用者に選ばれるため質の良いサービスを提供しようと利他的になる、との見方だ。

 だが、看護師、介護士、保育士、保健師など女性が多い専門職職場では、「競争」のための効率化に向けて人員削減が続き、コロナ禍ではその穴を埋めて「利他的」とされる女性たちが死ぬほど頑張る、というゆがみが浮かび上がった。

 たとえば保健所は、財政の効率化を旗印に1990 年代以降、数が減らされ続けてきた。コロナ禍ではそこに、大量の検査要請が殺到した。約9割が女性である保健師の世界では、働く母も少なくない。そんな中で、人員不足と「良質のサービス」要求と家庭責任のはざまに置かれた彼女たちは、取材にこう語った。

 「長時間労働でみな泣きそうになって働いていた。毎晩深夜の帰宅になり子どもが不登校になった。疲労で眠れない日が続いた」。

 「住民の健康のためにと志した仕事だったが、家族から泣きつかれ、もう限界と退職を決意した」と辞めていった女性もいた。もし辞められない立場にいたら、命を落としていたかもしれない。

 看護師の世界でもコロナ禍の2022年末、千葉県内の病院に勤めていたシングルマザーの看護師が自死に追い込まれている(2023 年5月7日付デジタル朝日)。

 実はこの間、看護師の自死は、男性にも起きている。「女性は利他」を前提に、人手不足を埋めて良質のサービス提供を行わせる職場環境が、参入してきた男性をも巻き込んで追い詰めていく。次回、そのメカニズムを検討してみたい。