暇工作 勝手読みだった「労組脱退の見返り」
ひま・こうさく 個人加盟労組アドバイザー
「組合に入ったら不利益を受けるんじゃないかと…」
個人加盟労組加入を勧められて躊躇している人の言葉である。 組合加入を不利益扱いの理由にすることは不当労働行為。法律で禁じられているが、現実的には、この人の感覚は概ね正鵠を射ている。そもそも、会社が労働者の組合加入、とりわけ、個人加盟労組などを歓迎する謂れはない。この感覚は、「組合に入らなければ(又は、組合を抜ければ)会社は喜び、利益を与えてくれるかもしれないという期待感と裏腹の関係を含む「公式」だと信じられている。
だが、この公式にはかなりの変数が含まれていることを忘れてはならない。労働者の一方的な思い込みは禁物である。会社はしたたかである。
暇たちの、少数派労組の長い争議が一段落した時のことだ。 「オレは仲間たちへの義理は果たした。今後は、一人のサラリーマンとして全力で会社の仕事に励んでみたい。せめて部長までには昇ってみたい。そのくらいの実力はあると自負している」
こう言って、少数組合から脱退し多数派組合に移った一人の仲間がいた。恐らく、会社との間に明白な約束を交わしていたわけではなさそうだ。本人が一方的に「公式」に従って先を読んだだけに違いない。
暇は、「それは君の自由だが、少数派の組合員・課長として存在していた方が、ありきたりの部長の一人になるより、ずっと価値が高いんじゃないか」と言ったのだが、それは聞き流された。
しかし、ともかく、その後の事態は彼の思惑通りには進まず、結局彼の部長昇進のニュースに接することはなかった。
その後数年経過したころ、当時の人事部の幹部と雑談する機会があった。暇はふとこの件を思い出して、「あのとき、彼をなぜ部長に登用しなかったのです?」と聞いてみた。答えはこうだった。「いや、暇さん。会社にも矜持がありますから」
不当労働行為になることを警戒して、彼の昇進を見送ったのかもしれないし、昇進させれば、あまりにも見え見えの行為として、むしろその倫理性が問われる。それはガバナンス視点から言っても、会社側のメリットにはつながらない、そんな計算もあったかも知れない。だとすれば、彼の行動は、会社から歓迎ではなく軽蔑に近い感情で受け止められていたという解釈さえできる。いずれにせよ、会社には選択の自在と自由があった。公式的思惑が常に通用するほど単純な世界ではなかった。やはり、労働者たるもの、隙間利益をかすめ取ろうなどとセコイ考えではなく、正々堂々多数の声とパワーで正義を貫く王道を選びたいものだ。