雨宮処凛の「世直し随想」

 

 

      

       「命の砦」を崩すな

 


 あまみや かりん 作家・活動家。フリーターなどを経て2000年,自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年,太田出版/ちくま文庫)で日本ジャーナリスト会議賞受賞。


 この号が出る頃、高額療養費の問題はどのような決着を迎えているだろう? 高額療養費とは、医療費が高額になった場合、自己負担を軽減できる制度。  例えば年収700万円の現役世代の人の場合、医療費が月に100万円かかったとすると自己負担は30万円。が、高額療養費制度を申請すれば、自己負担の上限額は約8万円になる。「この制度のおかげで助かった」と語る人は多くいる。が、この原稿を書いている今、国会で、この制度の「見直し」=自己負担増が議論されているのだ。見直し後は、自己負担の上限額が約14万円になると言われている。ほとんど倍だ。  そんなことになったら、「医療費が払えず治療を諦める人が続出する」とがん患者の団体をはじめとして多くの人から反対の声が上がっている。  というか現時点でだって、お金がなくて受診を控え、手遅れになって亡くなっている人は多くいる。「全日本民医連」が発表した、「2023年経済的事由による手遅れ死亡事例調査概要報告書」によると、23年の1年間で、経済的理由から受診が遅れたりして命を落とした人は48人。  医療費が払えずに抗がん剤治療を中断したケースや、保険料が払えず保険証を使えなくなったことから病院にかかれず、救急搬送された時にはすでに手のつけようがない状態だったなど壮絶なケースばかりだ。保険証はあるものの、休んで収入が減ることへの不安から働き続け、手遅れとなったケースもある。  今でさえ、この状態なのだ。「命の砦」を、切り崩してはいけない。