真 山民「現代損保考」

            


        しん・さんみん 元損保社員 保険をキーに経済、IT等をreport


         

     保険業から保険サービス業への進化を目指す第一生命

               東京海上も木造高層ビル

           


   第一生命と東京海上の木造高層ビル

 

 東京の中心から川崎・横浜にかけて、いま首都圏で、景観を変える100もの巨大プロジェクトが進行している。その中には保険会社が建てる木造高層ビルがある。

 一つは、東京メトロの京橋駅近く、中央通りと鍛冶橋通りの交差点に、今年7月にオープンした「第一生命京橋キノテラス」。旧京橋第一生命ビルディングを建て替えたもので、同社にとっては、2022年に完成した「TDテラス宇都宮」(宇都宮市)に続き、2棟目の木造オフィスビルとなる。(写真=池田京子撮影

 木造と鉄骨造のハイブリッド構造を採用した賃貸オフィスビルで高さ56メートル。現時点では、木造混構造ビルとして日本一の高さとなる。

 もう一つが、東京海上HDと東京海上日動火災保険が2028年度の竣工を目指している東京・丸の内の「新・本店ビル」。地下3階・地上20階建てで、高さは約100m。延べ面積は約13万㎡。完成時には国内最大規模の高層木造になる予定だ。床の構造材にCLT(直交集成板*)を使い、柱の多くにも木材を取り入れる。建物のファサード(正面玄関側の立面)は垂直に立ち並ぶ柱をガラスで覆うデザインに仕上げ、「木の本店ビル」のイメージを打ち出すという。

 *CLT  Cross Laminated Timber 繊維方向が縦の板と横の板を交互に積み重ねて接着した木材製品で、強度が均一で安定している。

 

 木材を使用してCO2排出量を削減

 

 「第一生命京橋キノテラス」には、東京都の多摩産材を含め、全国の産地で確保した木材約1100立方メートルが柱や梁、耐震壁、床、軒裏に使われている。さらに、約740トンの二酸化炭素(CO2)を固定化、使用した鉄骨のうち約70%にリサイクル鋼材である電炉材が採用されている。

 こうした材料の組み合わせで、同規模の鉄骨造オフィスビルと比べて建設時のCO2排出量を約37.5%削減したと第一生命と設計を担当した清水建設が発表している。

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  不動産、自動車保険、年金、事業拡大にも邁進

 

 「第一生命京橋キノテラス」の建設は、第一生命の機関投資家としての不動産投資の一環だが、それだけではなく、同社は幅広く事業拡大に邁進している。列挙すると、以下のとおりだ。

 1.第一生命HDと丸紅による500億円規模の不動産ファンドの立ち上げ。両社の共同出資会社、第一ライフ丸紅リアルエステートが、中長期で200億円規模の純利益を目指す。

 2.第一生命HDの子会社の米プロテクティブが米国で損害保険事業を展開するポートフォリオを買収。プロテクティブは車両保険などの損害保険事業を手掛ける。ポートフォリオが強みを持つ米国中南部などで同事業を拡大、今回の買収でアセット・プロダクション事業(APD 、車両等の機械の故障費用や、全損時のローン残高相当分を補償する損害保険)の利益規模は倍増する見通しという。

3.第一生命HDが英国の大手生保M&Gに約15%出資。出資額は約8億5000万ポンド(約1600億円)。M&Gはロンドン証券取引所に上場し、生命保険のほか、年金基金などの機関投資家向けの資産運用も手がけている。24年末時点の資産残高は3450億ポンド。企業年金の資産と債務を引き受けて運用する「年金バイアウト」(*)に強みを持つ。

 *年金バイアウト 確定給付企業年金の資産・債務リスクを削減する方策の一つで、年金の資産と債務の全部または一部を保険会社などの第三者に移転するスキーム。主に英国や北米などの一部の国で実施されている。

 

 黒字でもリストラも実行

 

 環境重視の木造高層ビルに、広範な事業を展開する第一生命の経営方針に加わるのがリストラだ。第一生命HDが第一生命保険の営業職員を除く勤続15年以上・50歳以上の社員を対象に1,000人規模の希望退職の募集を発表したのは昨年11月のことである。この募集に想定の1.8倍となる1830人から応募があった。   

 最近は、黒字でも人員削減に取り組む企業が相次いでいる。東京商工リサーチによると国内で早期退職や希望退職を募った上場企業は、9月末時点ですでに前年の1万9人を上回る1万488人に上った。前年同期比では2割増の水準だ。しかも人員削減を実施した企業のうち6割超は直近の通期最終損益が黒字だった。第一HDも2024年度は保険料収入は前年度を下回ったものの、経常利益は前年度の約5390億円から7191億円と大幅に上回っている。

 中高年を対象に実施する動きも加速している。第一生命のほか三菱電機の対象年齢は53歳以上、三菱ケミカルは50歳以上だ。明治HDも50歳以上を対象とした。

 「業績が安定しているなかで、なぜ今、希望退職なのか?」、朝日新聞のインタビューで、こう尋ねられた第一生命HDの隅野俊亮社長はこう答えている。

 「会社は時代、環境の変化の中で変わってきて、これからも変わり続けようとしています。その世界観や思想に必ずしも合わなくなったり、もどかしさやストレスがあったりするのであれば、人生100年時代ですので、次の職を探す後押しをしようということです」 リストラも社員のため、というのだろう。

 

 グローバルトップティアの保険グループを目指す

 

 第一生命HDは、2026年4月にも社名を「第一ライフグループ」に変更すると同時に、グループブランド名称を「Daiichi Life」にする。これについて、同社はこう説明している。

 「今後、社業を生命保険領域にとどまらない「保険サービス業」へと進化させ、一人ひとりに寄り添い『人生』の可能性をひらく企業へと変革を遂げることで、『グローバルトップティア』(特定の業界や分野において世界的にもっとも優れた地位や評価をもつ企業や組織)に伍する保険グループへと大きな成長を実現していくことを目指します」。

 木造高層ビルと社名変更は、生命保険事業を中心に、資産形成・承継事業、さらに非保険事業へと事業領域を拡大しながら、グループの成長を目指す戦略をアピールする第一生命の象徴である。希望退職もその一環というわけだ。今後も非保険分野も含めM&Aを通じて、従来の保険業から保険サービス業への進化を目指す第一生命の行き方は、東京海上や損害保険ジャパン、そしてMS&ADインシュアランスグループホールディングスから三井住友海上グループに変わるメガ損保が目指す行き方でもある。それが果たして、従業員と代理店、そして契約者の利益につながる行き方になるのか?注視が必要であろう。