雨宮処凛の「世直し随想」

 

 

      

      メディア人と市民の力


 あまみや かりん 作家・活動家。フリーターなどを経て2000年,自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年,太田出版/ちくま文庫)で日本ジャーナリスト会議賞受賞。


 

 むちゃくちゃシビれる映画を観た。

 それは『非常戒厳前夜』。 2024年12月3日、韓国のユン・ソンニョル大統領によって突然非常戒厳が宣布されたことは記憶に新しい。

 戒厳令は6時間で解除され、その後、大統領は弾劾。今年6月には政権交代があり、7月にはユン前大統領が逮捕、8月にはその妻も逮捕という異例の事態となったが、映画はそんな「非常戒厳」までに何があったかを描くものだ。

 ユン大統領の「目の上のたんこぶ」だったのが、独立系メディアの「ニュース打破」。イ・ミョンバク政権のメディア介入によって公共放送を解雇されたりしたジャーナリストたちが中心となって12年に立ち上げられた、調査報道専門のメディアだ。このニュース打破、ユン氏が大統領就任前からその不正を追求してきたのである。

 大統領となったユン氏はニュース打破が自身に関するフェイクニュースを流したとして弾圧。ソウル中央地検は「大統領選挙介入世論操作特別捜査チーム」を作り、ニュース打破の事務所や記者の自宅を家宅捜索した。与党議員らはそんなニュース打破を「国家反逆罪に該当し、死刑に処すべき重大犯罪者」と攻撃した。

 逆風の中、一歩も引かないニュース打破の記者たちと、被害者意識を強め追い詰められた果てに、大統領が非常戒厳を発令するまでが描かれる。弾圧は、激しい。しかし、それに抗うメディア人、一般市民の底力に心を揺さぶられる。ぜひ、多くの人に観てほしい映画だ。