真 山民「現代損保考」
しん・さんみん 元損保社員 保険をキーに経済、IT等をreport
おひとりさま終活・死後事務サービスと介護保険外サービス
急増するひとり暮らし高齢者
21世紀の日本社会にとって、最も厄介とされる課題が人口減少と超高齢化だ。国立社会保障・人口問題研究所が昨年4月に公表した世帯数の将来推計によれば、2020年は2115万世帯で世帯総数の38%と最も多く、「夫婦のみ」「夫婦と子」などを上回る。50年には2330万世帯で44%に膨らむ。中でも目立つのが65歳以上の単独世帯。20年は38万で総数に占める割合は13%だったが、50年には1084万で21%と初めて2割を超える。
少子高齢化によって核家族化、地域のつながりの希薄化が進み、頼れる親族などのいないひとり暮らしの高齢者も急増している。入院や施設入居時の身元保証人がいない、死後の事務を手配する人がいない、認知症で判断力が不十分になっても誰も気づかない。今は家族や頼れる親族がいても、明日は我が身かと不安になる人も少なくない。
死後事務をサポートするおひとりさま信託
万一の場合、葬儀の実施はもちろん、役所への行政手続き、病院代などの支払い、公的年金などの届出事務など、さまざまな事務手続き(死後事務)が発生する。「おひとりさま」や「家族などに負担をかけたくない方」などの場合、これらをすべて事前に準備する必要がある。
そうした死後事務(死後の身の回りのこと)をあらかじめ専門家等に委任しておく死後事務委任契約という契約がある。三井信託銀行は、万が一のときの死後事務をサポートする死後事務委任契約を「おひとりさま信託」という名称で2019年から販売している。300万円以上の金額を預入すると「安心サポート」というサポート業者が、契約者の希望に沿って葬儀・埋葬、家財処分などの死後事務を実行する仕組みだ(下図参照)。
三菱UFJ信託銀行は昨年10月、シニア総合サポートセンターやきずなの会(名古屋市)など3者と提携。顧客の紹介をするとともに、顧客からの預託金を信託商品として管理することを始めた。
(上図=三井信託銀行ホームページから)
足立区福祉協のおひとりさまサポート
東京都足立区の社会福祉協議会(*)では、ひとり暮らしで親族の支援が受けられない高齢者と事前に契約を結び、入院・入所時に保証人に準じたサポートを行なったり、公正証書遺言を作成し、預託金を預かったうえで葬儀、納骨、家財処分を行う「高齢者あんしん生活支援事業」と、預託金を預かることなく、月々の利用料のみで死後事務のみを行う「おひとりさま死後事務支援事業」を展開している。
*社会福祉協議会 社会福祉法第109条に基づいて社会福祉事業に関する調査、企画、調整、連絡、助成、福祉などを目的とする民間の団体。
東京海上が身寄りのない高齢者、終活を支える新保険を発売
預託金を預かることなく月々の利用料のみで死後事務のみを行う足立区福祉協の「おひとりさま死後事務支援事業」のように、蓄えや所得が少ないお年寄りでも安心して死後の手続きを任せられる新サービスを愛知県知多市のNPO法人・知多地域権利擁護支援センターと東京海上日動火災保険が協働して開始した。
同センターは通常、知多半島の4市5町(半田市、常滑市、東海市など)から委託を受け、認知症の人に代わってお金の管理を行う成年後見業務などを担っている。当初は月額5千円の利用料のほか、20万円の「預託金」を徴収していた。これが所得や資産が少ない高齢者にとってネックになり、相談しても利用を断念するケースが相次いだ。そこで、東京海上日動とともに新たな仕組みを開発することになった。
保険料は終身で月額1千円台。生命保険と違い、病気など健康状態を告知する必要はない。余命宣告を受けた場合は預託金での支払いとなる。
終活・死後事務と介護保険外サービス
三井信託銀行の「おひとりさまサポート」のようにあらかじめ預金(預託金)を積むか、知多地域権利擁護支援センターの「くらし安心サポート事業」のように保険料を支払って終活をサポートしてもらうかは別にして、死後事務にしても終活にしても、これらのサービスは介護保険の支給対象外である。これに加え、要介護者が必要とするサービスの中にも介護保険の対象とならない「介護保険外サービス」は実に多い(下表参照)。これらの「介護保険外サービス」は、介護保険産業の市場として年々拡大し、2020年の6.4兆円が2050年には推計約17兆円まで拡大する(日経9月28日)。
人口が1億人を割る2056年の日本は、3750万人が65歳以上になる。成人の18歳から64歳までは5046万人で、1.3人の現役が1人の高齢者を支える未曽有の高齢化社会がやってくる。50年度に介護保険で「要介護」か「要支援」となる人は941万人に膨らむ。「介護職員」は302万人必要となるが、今の就業構造を前提にすると6割の180万人しか確保できず、 4割も足りない。
終活と死後事務、介護支援、どちらもサービスを受けるための費用を個人と国・自治体とが分かち合って負担する、そうしたスキームを今から構築しておかねばならないが、国、企業、政治家は、果たしてそんな見通しを持っているだろうか。