前田功 昭和サラリーマンの追憶
富裕層優遇税制の是正を!
まえだ いさお
元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表
江戸時代、八代将軍・徳川吉宗は財政悪化の解消策として、年貢の取り分を「四公六民」から「五公五民」に引き上げた。百姓が作った米の半分を藩や幕府が取り上げたわけである。農村は圧迫され、百姓一揆が各地で起きた。美濃の郡上一揆では藩に訴えても相手にされず、幕府への直訴にまで至った。主謀者は処刑されたが、藩は改易され、老中や若年寄など幕閣まで責任を問われる大事件となった。
当時は大名の価値が「石高」で決まり、国の基盤は農業だった。年貢は税収の柱であり、負担は農民に集中していた。落語でおなじみの「八っつぁん」「熊さん」のような裏店の長屋に暮らす無産の職人や小商人は年貢を課されていなかった。
とれた米の半分を取り上げるというのは酷い話だ。今はそんなことはないはずだと思って調べてみて、驚いた。
国民負担率という指標がある。GDPに対して税金や社会保険料がどれくらいの割合を占めているかを示す。所得税、住民税、法人税、消費税などの税と年金、健康保険、介護保険、雇用保険などの社会保険料を合算してGDPで割って算出する。この数字は1975年に25.7%だったが年々上昇し、2024年度には48%に達している。「五公五民」に近い水準である。
国の運営に金がかかるのは仕方がないとしても、それが公平に負担されているかが問われる。様々な状況にある人たちが、それぞれの担税力に応じて負担しているかどうかが重要だ。
所得税は一応累進税であり、給与所得に対する最高税率は45%である。しかし株式などの金融資産や土地・建物などから得られる資産所得は申告分離課税を選択でき、所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%の合計20.315%で上限となる。
住民税の所得割は一律10%であり、均等割は5,000円である。これも資産所得について申告分離課税の適用が可能である。社会保険料は標準報酬月額65万円の上限があり、報酬が高くなるほど保険料負担の割合は下がる。
これらの仕組みにより、資産所得の割合が大きい富裕層は実効負担率を低く抑えることができる。財務省などの検討でも、年収1億円を境に負担率が下がり始めるという指摘がなされている。
要するに、働いて汗を流す人ほど相対的に重く課税され、資産を多く持つ富裕層は収入に比して負担が軽くなるという不公平な税制になっている。
昭和の時代はもっと累進性があった。現在の所得税最高税率は45%だが、昭和期には最高税率が75%だった。住民税も現在は一律だが、当時は若干の累進性があった。累進性が徐々に緩められたことは事実である。
実感としての負担感は年収200〜300万円台で約20%前後、年収500万円台で約30%前後、年収1,000〜3,000万円台で約30〜35%前後となる一方、収入の大半が資産所得である富裕層は実効税率が20%台にとどまる。年収が非常に高く社会保険の適用上限を超える層では給与にかかる社会保険料の負担率がほとんど無視できるほど低くなる。働く人の給与所得に高い負担を求め、資産で稼ぐ不労所得に低い負担を認めるのが現代の負担構造である。
さらに消費税や先送りされた国債利払い分を加えれば実際の負担はさらに重くなる。政府債務を世代で割れば若い世代に「見えない負担」が積み上がる。
不労所得を優遇し働く者に相対的に重い負担を課す税制は公平でも合理的でもない。働いて得た1万円と資産で得た1万円が同じ扱いを受けないのは明らかにおかしい。資産や相続に対する優遇を放置すれば社会は歪む。マイクロソフトを創業し資産が非常に大きいとされるビル・ゲイツは「富裕層に課税しても彼らの生活水準は変わらない」と述べている。高額資産に対する課税強化は現実的な財源確保策である。富裕層はもっと負担できるし負担すべきだ。
この不合理な富裕層優遇は政治に原因がある。「裏金」の源泉は富裕層や企業が買うパーティー券や企業献金である。資金を提供する側は既得権を守りたがり、受け取る側はその利権に手を入れたがらない。まずこの構図を正す必要がある。
江戸時代の農民は「五公五民」に耐えかねて立ち上がった。現代の庶民は「政治とカネ」について怒っているが、富裕層優遇税制の是正にはあまり注目していない。だがこの優遇は「政治とカネ」の問題がもたらした結果である。
「政治とカネ」を明らかにし、分離課税の見直しや累進性の強化など富裕層優遇の是正に取り組むべきだ。税制の公正を回復することは財政の持続性を高め世代間の負担の公正化につながる。