守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


  

 久しぶりにうれしい出会いがあった。9月1日、防衛省前の集会でのことだ。

 散会の送り出しに仲間たちと歌って、さあ片付けて帰ろうとしていたら、背の高い青年が「何をしているのですか」と声をかけてきた。辺野古埋め立てに反対して海の自然を守るための要請行動だと説明すると興味がありそうだったので、近くのコンビニで飲み物を買って立ち話をした。

 声をかけてくれたのは、新基地建設反対のプラカードよりも、私が使っているリュックサックが目にとまったからかもしれない。ドイツのオルトリープ社のもので、日本ではあまり知られていないが、ヨーロッパでは防水性の高いバッグ類がウォータースポーツをする人からも愛用されている。背中に接する面にクッションと通気を兼ねた特徴的なスポンジがついているから一目でわかる。T君も同じメーカーの物を持っていた。日本人でオルトリープを知っている人は珍しいと言うから、私が以前ドイツに住んでいたことを話すとヨーロッパのことをいろいろ聞いてきた。ドイツでは大学まで教育費はほぼ無料だし(私が知っている限りでは、半年ごとに50ユーロの事務手続き料がかかる)、医療費は老いも若きも無料だと話すと大いに興味を示し、外国に行ってみたいと思っていると言っていた。人懐っこく物怖じしない若者だ。小一時間話してメールアドレスを交換し、11日には経産省前脱原発テントひろばの14周年記念集会があること、その後東電本店前で福島事故の抗議行動があることを伝えて別れた。

 11日はものすごい豪雨で、傘を打つ雨音でスピーチの声が聞き取りにくいほどだった。都心でも地下街が浸水したり、電車が止まったりした。それでも、のべ百人近い参加者があり、ほとんどが高齢者なのに2時間の集会によく耐えたのは偉いと思う。でも、みんなずぶ濡れで、さすがに東電まで行く人は少なかったのだが、なんと思いがけずT君が来てくれた。私が欣喜雀躍したことは言うまでもない。

 二人で喫茶店に入っていろいろな話をした。某有名大学の三年生で化学を学んでいるという。なかなかの読書家でショペンハウアーやニーチェも読んでいる。やはり興味の対象は市民運動よりも外国に行くことのようだったが、今はそれでいいと思う。市民運動で世の中が変えられるかどうかには懐疑的なようだけれど、否定的ではない。

 生まれた時から不景気で、格差社会で自己責任の時代の若者が市民の力を確信できないのは、私たちの力が足りず成功体験を見せてあげられないからだ。それでも社会に迎合せず、あきらめず、違う可能性を模索しているのだから大いに頑張ってほしい。本当は、そういう若者こそ日本に残って闘って欲しいけれど、今のこの国の現状を考えると、それを求めることも酷だと思うし、一度日本を外から眺めてみるのはきっと有用だ。私の経験が少しでも若者の役に立つなら嬉しい。

 T君はその後、もう一度「未来のための合唱」にも来てくれて、私のお勧め小説『彼らは世界にはなればなれに立っている』(太田愛著 角川書店)を貸した。この次会ったら、どんな感想を聞かせてくれるかが楽しみだ。

 それにしても、今の若者はかわいそうだと思う。私が無鉄砲にも一人でドイツに行ったりすることができたのも、東西冷戦とは言え差し迫った戦争の恐れがなく、先進国では将来の生活に不安がなく、人の心が寛容な時代だったからだ。人種差別は皆無ではなかったけれど、憎悪や排除といった野蛮なものではなかった。いまでは世界中でタガが外れたように倫理や理性が失われようとしているが、だからこそ私たちが踏ん張って流れを変えなければならないと改めて思う。高市氏が自民党総裁になり、また一歩戦争へと近づいてしまったけれど、あきらめたり、無力感に捕らわれたりしてはならない。今闘わなくてどうする!若者を戦場に送るな!