守屋 真実 「みんなで歌おうよ」

                     


 もりや・まみ ドイツ在住27年。ドイツ語教師、障がい児指導員、広島被ばく2世。父は元千代田火災勤務の守屋和郎氏 

                   


  今年もまた、大人のための紙芝居の会が近づいた。今回のメインは「よみがえった水仙」という房総の花農家の話なので、何か花にまつわる曲をと考えていて、ふと子どもの頃に聞いた「平和と軍縮を」という歌を思い出した。

 

 ♫ 花を育てるその心で平和と軍縮を 平和と軍縮を
   明日からの歴史に戦争をなくすのだ          (新宿合唱団作詞、荒木栄作曲)
 会の打ち合わせで「カキキンシレイ」と聞いた時には、不勉強ながら「それ、なんですか?」と聞いてしまった。第二次大戦中、食糧増産のために花の栽培が禁止され、畑には芋やカボチャなどを植えなければならない時代があったことは知っていたが、それを「花卉禁止令」というのだと初めて知った。花を育ててはいけないばかりでなく、種や球根を焼却しなければならなかったそうだ。花を愛でることすら許されないほど追い詰められたら、もう戦争に負けることは明らかではないか。桐生悠々に倣えば、「花卉禁止令を嗤ふ」と言ったところだ。何とも馬鹿々々しい法律ではないか。
 と思っていた2月26日、しんぶん赤旗の記事に目玉が飛び出しそうになった。政府が食料・農業・農村基本法を「改正」し、「有事」の際には、農家に芋づくりなどを命令することができる「食糧供給困難事態法案」を国会に提出しようとしているのに対し、田村貴昭議員が農政の抜本的見直しを迫ったという内容だった。
 米、麦、大豆など日本人の食卓に欠かせない農産物が不足する事態には、政府が供給目標を設定し、農家に増産計画の届け出を指示できる。届け出を出さない場合には20万円以下の罰金を科すという法案。つまり花農家にも強制的に芋を作らせようということで、まさに花卉禁止令の復活だ。法案を全部書くと恐ろしく長くなってしまうので端折るが、平時からの増産や備蓄、農家支援や後継者の育成といった食料自給率を高める政策ではない。政府は自然災害や他国の紛争に影響された食料供給不足を想定しているかのように言っているが、軍事費の増大、琉球弧の軍事要塞化、兵器の生産・輸出解禁、自衛隊が保存血液の備蓄を増やしていることなどと合わせて考えれば、これはまさに「戦時食糧法」だ。
 この法案は2月27日に閣議決定されてしまったのだが、ほとんどの人がそのことを知らない。今国会は裏金問題ばかりに注目が集まっているけれど、その陰で戦争準備が着々と進められているのだ。
 花は戦争の対極にあるものだと思う。フランスの作家モーリス・ドリュオンの児童文学「みどりのゆび」では、チトという少年が触った大砲からは弾の代わりに花が飛び出して、兵士たちは戦争をやめてしまう。バンクシーにも火炎瓶の代わりに花束を投げようとする若者を描いた作品がある。人は、うれしい時にも悲しい時にも花を愛でる。花を育てることや花を飾ることを禁じるのは、人の心と感情を縛ることだ。民主主義と人権を奪うことだ。
 時代を逆行させてはならない。花を愛そう!歌を愛そう!平和を守ろう!