連合通信社「社会・労働report」


     ライドシェア 雇用、公共交通に影響   


  昨夏、菅義偉前首相が解禁を訴え、岸田首相が臨時国会で「取り組む」と述べた「ライドシェア」。過疎地や福祉分野で認められている「自家用有償旅客運送」の今年4月からの利用拡大と、米国などで広がる本格的な「ライドシェア」を視野に入れた法改正の二段構えで解禁が進められています。今後の雇用と、公共交通のあり方への大きな影響が考えられます。

 

 「ライドシェア」は定義が曖昧で、さまざまな意味で使われていますが、元々は、ウーバーなどプラットフォーム企業が提供するスマホアプリによって、一般の運転手と乗客をつなぎ、自家用車で目的地に輸送するサービスをいいます。

 欧米で広がり、日本でも約9年前に導入論議が高まりました。しかし、この事業は違法な「白タク」で、安全面で問題が大きいことが明らかになりました。その後、欧州ではタクシー事業として規制するなど、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国中30カ国で実質禁止されています。

 ところが昨夏、コロナ禍からの経済活動再開による一時的な「タクシー運転手不足」を口実に、菅前首相や河野太郎デジタル担当相らが、「ライドシェア」解禁を主張。これを受け、岸田文雄首相が昨秋の臨時国会で「取り組む」と表明し、わずか2カ月の審議で推進方向を示しました。

 その一つが、交通空白地や福祉分野で非営利事業者に認められている「自家用有償旅客運送事業」を利用した「新たな制度」。タクシー会社の管理の下に、地域、時期、時間帯を限定して4月に開始します。

 もう一つが、タクシー事業の規制を全く受けない米国型ライドシェアを視野に入れた法改正を6月までに検討するという方向です。

 

 ●非雇用の働き方を広げる

 米国型のライドシェアでは、運転手は個人事業主として扱われ、最低賃金など労働者保護の対象外。労働組合を結成しても、アプリを提供する企業は団体交渉には応じません。「アカウント停止」という名の「解雇」は簡単に行われます。

 「新たな制度」も、国土交通省の案では、タクシー会社による車両の整備管理や研修、教育、勤務時間把握を義務付けていますが、雇用契約にすべきとは明記せず、個人請負による就労の余地を残しています。

 タクシーは2000年代初め、規制緩和による著しい供給過多に陥り、運転手の収入は大幅に低下しました。今回も「雇用によらない働き方を広げる無謀な規制緩和が行われようとしている」として、関係労組が反対の声をあげています。

 

 ●白タク拡大に道開く

 公共交通にも大きな影響が及びます。

 全国ハイヤー・タクシー連合会の提出資料によると、米国のライドシェア(ウーバー)の場合、乗車回数10万回当たりの強制性交など性犯罪の発生率は日本の388倍(参考値)にも上るといいます。

 ライドシェアは巨大な資本を背景に、最初は低料金で参入を図り、一定のシェア拡大後、料金を引上げます。既存のタクシー産業は大打撃を受けます。

 ニューヨーク市では、タクシー13,500台に対し、ライドシェアの車は約8万台。深刻な交通渋滞を招き、「混雑税」の導入につながりました。

 「新たな制度」も基本は「白タク」です。タクシー運行管理のノウハウのないIT企業が形式だけを整えて参入し、利益を得ようとすることや、規制を緩め、こうした企業の参入を許すことも考えられます。そうなれば安全・安心は損なわれるでしょう。

 

 ●運転手不足を解消するには

 タクシーの運転手不足を解消するには、賃金・労働条件を抜本的に改善し、選ばれる産業にするほかありません。観光地のタクシー不足はオーバーツーリズム対策を、過疎地の住民の交通権確保には、公的補助を行い、公共交通機関としてのタクシーを維持することが必要です。