議員任期延長改憲の狙いは「戦争する国づくりの一環」


            飯島滋明 

      いいじま・しげあき 名古屋学院大学教授(憲法学・平和学)      


 

 岸田文雄首相は自民党総裁在任期限の9月までに改憲を行うとして、「改憲項目」の取りまとめを同党内に指示しました。衆院憲法審査会では、国会議員の任期延長を可能にする改憲の論議が、与党と一部野党により進められています。

 飯島滋明教授は「戦争する国づくりの一環」と狙いを指摘します。


 

 憲法では、衆議院は原則4年間(45条)、参議院は6年間(46条)と議員の任期が定められています。これに対し、戦争や自然災害などの緊急事態で選挙ができない場合に国会議員の任期を延長できる改憲を、自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、「有志の会」の改憲5会派は主張しています。

 緊急時でも「立法機能」や「行政監視機能」という「国会機能」を維持するために必要だというのが理由です。

 しかし、その一方で、2021年にコロナ禍で多くの国民が苦しみ、特に若い女性の自殺が急増するなどの緊急事態でも、当時の菅義偉自公政権は80日以上も国会を開きませんでした。2017年、20年も、野党が憲法53条に基づき臨時国会召集を要求しましたが、自公両党は長期間、国会を開きませんでした。「言っていること」と「やってきたこと」が違い過ぎます。

 

●戦前の轍を踏む岸田政権

 

 自然災害で選挙ができない地域がある場合、「繰延投票」(公職選挙法57条)や、さらに「参議院の緊急集会」(憲法54条2項)で対応できます。

 緊急事態を口実に全国一斉に、しかも半年以上も選挙を実施しなくても良いという改憲は国民から参政権を奪い、「国民主権」(憲法前文など)から正当化できません。

 さらに23年11月16日、衆議院憲法審査会で、自民党の中谷元議員、公明党の北側一雄議員はウクライナでの選挙延期に言及し、「国会議員の任期延長改憲」の必要性を主張しました。

 日本でも日中戦争中の1941年、戦争遂行のために衆議院議員任期延長法が制定され、任期が1年延長されました。国会議員の任期延長改憲は、岸田自公政権が進める「戦争する国づくり」の一環でもあり、憲法の「平和主義」からも正当化できません。

 

●腐敗議員の居座り許す

 

 18歳女性との「パパ活」が問題になった自民党の吉川赳衆院議員は今も国会議員を辞めていません。裏金疑惑が指摘される同党安倍派の国会議員たちも地位にしがみつくのに必死です。

 改憲5会派が国会議員の任期延長改憲を主張するのは、保身、居座りを可能にするためと批判されています。24年1月4日の記者会見でも岸田首相は「憲法改正の実現にむけた最大限の取り組みも必要です」と発言しました。能登半島地震で大変な状況にある市民のことを考えずに「改憲」しようとする自民党の本質が現れています。

 日本維新の会も「身を切る改革」と言いながら「居座る改憲」を主張しています。「憲法改正」の国民投票には850億円もの税金がかかります。このような国会議員が居座るための改憲に、850億円もの税金をかけることに賛成しますか?

 

 

 戦争推進のために制定された衆議院議員の任期を1年間延長する法律は、日中戦争中の1941年(昭和16年)2月24日に公布され施行されました。1年後に、戦争推進への異論を許さない「翼賛選挙」が行われます。

 これと前後して、40年9月、日独伊3国同盟に調印、同10月、「大政翼賛会」、同11月、「大日本産業報国会」を創立、41年3月、国家機密の探知・収集・漏えいの最高刑を死刑とする「国防保安法」公布、思想犯への弾圧を強める治安維持法改正が行われるなど、戦時体制が強められました。そして、41年12月8日、無謀な太平洋戦争を開始。日本人310万人、アジア各国で2千万人超が犠牲になったといわれています。