真山 民「現代損保考」

       しんさん・みん 元損保社員。保険をキーに経済・IT等をレポート。


      契約者の保険料を自民党に貢ぐ保険会社 


                      パーティ券(AERAより)

 

 自民党5派閥がそろって政治資金法違反

 政治資金規正法は、1回のパーティーで20万円を超える支出をした団体・個人について、団体名、および金額を記載することを義務付けている。自民党の5つの派閥が、2022年までの4年間の収支報告書に、主催した政治資金パーティーに関し、該当する団体の名前・金額を記載していないのは、政治資金規正法違反だと、神戸学院大学の上脇博之教授が5派閥の会計責任者らに対する刑事告発状を東京地方検察庁に提出したのは、昨年11月の中旬である。

 それから一か月後の12月19日に、東京地検特捜部が自民党の2大派閥である清和政策研究会(安倍派、以下清話会)と「志帥会」(二階派)の事務所などを、政治資金規正法の「不記載・虚偽記載」容疑で家宅捜索した。

 NHKなどの報道によれば、告発状では、「清和政策研究会」が約1900万円、「志帥会」が約900万円、平成研究会(茂木派)が約600万円、「志公会」(麻生派)が約400万円、宏池政策研究会(宏池会・岸田派)が約200万円分のパーティー券収入を記載していなかったとしている。しかし、後述するように実際の金額は、これをはるかに上回る。

 

 清和会から議員へのバックペイは5億円

 最大派閥の清話会の2021年分の収支報告書の「収支の状況」には、個人からの寄付が6280万円、団体からの寄付が2090万円、件の政治資金パーティーである「清和政策研究会との懇親の集い」の収入が1億2万円、2022年は9480万円と記されている。

 一方、「志帥会」の収支報告書には、個人と団体からの寄付が3249万円、「政治資金パーティー 志帥会と同志の語らい」による収入が1億8455万円であったと記されている。

 しかし、両派閥とも政治資金パーティーによる収入(パーティー券の売上げ)については、一部の団体については記載があっても、個人、分けても派閥の所属の議員がノルマとして売りさばき、派閥に上納した金額については、議員にキックバックされた分も含めて、金額も議員の氏名も記載されていない。

 清和会の2018年から2022年までのパーティ―券による収入は、合計6億5884万円にもなる。朝日新聞によれば、「収入・支出のいずれにも記載していない裏金の総額は1億円超」(12月1日)だが、時事通信によれば、「議員側への還流による裏金(バックペイ)と疑われる総額は5億円規模に上る可能性がある」という(12月12日)。

 

 上脇教授の刑事告発は「赤旗」の報道がきっかけ

 以上のような不正は、自民党のすべての派閥が何年も続けていた。それをあぶり出したのが共産党の「しんぶん赤旗」日曜版のスクープである。上脇教授の刑事告発は「赤旗」の報道がきっかけとなっている。上脇教授は「東京新聞」(12月19日)で以下のように述べている。

 

 『赤旗』からコメントを求められたこともあり、18~21年の4年間で計約4000万円の不記載があったことをあぶりだし、2022年末から23年1月上旬まで、立て続けに東京地検に告発した。

 パーティー券は、企業が年に何回も買っている。告発はその後も22年の調査分などで金額が積み上がり、安倍派は計3300万円超、5派閥合計では5900万円を超えた。各派閥が関わっており、金額も大きいので、極めて組織的な裏金作りではないかと思った。それで告発文書に『パーティー券の内訳の明細がないのはおかしい。これは恐らく裏金がつくられているのではないか。捜査してほしい』と申し添えた。

 

 生損保の自民党への献金

 では、生損保の自民党に対する寄付やパーティー券購入はどうか? といっても派閥が開催するパーティーのチケットを何回も購入しても、また寄付をしても、大方の個人・企業・団体は、それを「(派閥の)収支報告書に掲載しても構わない」とは絶対言わないし、自身の「収支報告書」にも記載しないのが通例だ。やはり世間体というか、国民の反発も考えているのだろう。それを物語る事実として、「赤旗」日曜版(12月24日)は、次の記事を掲載している。

 

 麻生派の鈴木馨祐(けいすけ)・元財大臣が顧問を務める「全国損害保険代理業協会」の役員が出席した各派閥や岸田首相、鈴木氏個人のパーティーのチケットの購入費用について、「事業報告書」に記載がありません。

 

 いま、パーティ券やそのキックバックによる裏金づくりにスポットライトが当てられているが、決して見逃せないのが、大企業や業界団体などが長年続けている巨額の政治献金である。自民党に対する政治献金を取りまとめる一般財団法人国民政治協会の「収支報告書」には、献金した企業・団体・個人と金額が記載されている。以下に2021年の自民党に対する政治献金の金額、および献金額が上位5位の企業と団体を掲載しておこう。

 

 

 損保企業もまた、例えば保険料の値上げや規制緩和が速やかに認可されることを期待して自民党に献金を続けている。以下は2021年の生・損保から自民党への政治献金一覧である。

 国民政治協会が取りまとめる政治献金は、「日本経団連の政治献金“斡旋”による政党“買収”」であると、上脇教授は明確に指摘している。(『財界集権国家・ニッポン 買収政治の構図に迫る』日本機関紙出版センター 2014年)。

 

 契約者が支払った保険料を、保険会社が勝手に特定政党への献金として使うという振る舞いが、果たして許されることなのだろうか。契約者がいつまでも黙認し続けるはずもないことを損保経営者は自覚しておくべきであろう。