暇工作「生涯一課長の一分」

    ひま・こうさく 元損保社員・現在個人加盟労組アドバイザー        


     「坊ちゃん」もどき

 

 プロ野球楽天イーグルス・安楽投手のパワハラが問題になり、球団が本人との選手契約を行わないと発表した。田中将大投手は、同僚としてなぜもっと早く気が付いて対応できなかったのだろうと自戒の念を込めた発信をしている。

不当な人権侵害に対し、その雇用主ともいえる球団や同僚から反省の言動が示されることに、パワハラ問題の社会的認識の進歩を実感する。

 

暇が少数派労組在籍中の争議では、パワハラとのたたかいは日常の一つであった。少数派労組員を多数の社員が取り囲むつるし上げ、いやがらせ。上司のいじめも後を絶たなかった。それは会社の意志でもあったから、同僚たちの良心が示される余地もなかった。もちろん、当事者としてのこちら側も手をこまねていたわけではない。社会的問題提起、会社への抗議、人権擁護委員会への訴え等々可能な正攻法は、ほとんど行った。長い目で見ればそれらの運動はやがて着実に広がり、大きな成果を生むことになるのだが、あのとき、その時点での即効性はなかった。やむに已まれぬ気持ちを抱えた暇は、気持の昂るままに直接行動に出た。本社で、たった一人の少数派組合員の女性を執拗にいじめる上司をターゲットにした直接談判、抗議の敢行である。

そのいじめ上司は、昼食時になると特定の蕎麦屋で昼食を取るということがわかっていた。暇は支援の仲間y氏と二人で、密かにその蕎麦屋で上司を「待ち伏せ」た。まるで、夏目漱石の「坊ちゃん」だ。山嵐と坊ちゃんが芸者遊びを終えた赤シャツを待ち伏せ、天誅を加える場面もどきである。

加害上司が入ってきてそばを注文した。頃合いを見計らって我々二人は、上司の向かい側に席を移し、改めて身分を名乗った。相手の箸を持つ手が震えだし、うまくそばを口に運べなくなった。

「お食事中失礼ですが、Mさん、あなたは会社の地位を笠に、部下の女性を不当にイジメていますね。そんな卑劣な真似はやめなさい。やめなければ、これから毎日、あなた宛てに抗議行動を続けますよ」

たしかに効果はあった。直接のパワハラはなくなった。しかし、この行動については賛否両論あった。いじめの元凶は会社じゃないか。加害上司とはいえ、個人の食事中に、まるでヤクザみたいに乗り込んで脅しをかけるなど、まともな労働組合のやることじゃない、という(少数)意見。一方、いや、正当な怒りがあるからこその行動だ。それを否定するのはきれいごとに過ぎない。一歩会社の外に出たらそんな無法は通用しませんよ、と加害実行者に伝えることは決して非難されるべきべきではないという意見(多数)も多かった。 

いずれにせよ、もし、あのとき、あの行動を取らなかったら、「暇、お前はなぜ心が命ずるままの行動を取らなかったのか」という内心の叱責に、一生苛まれることになったことだろう。

パワーハラスメントにも、それぞれ歴史あり、である。