暇工作「会いに来てくれたA君」

    ひま・こうさく 元損保社員・現在個人加盟労組アドバイザー        


 暇さん、お久しぶりです。その節はお世話になりました。損保会社をリストラされたとき、個人加盟労組にご相談に上がりましたが、あのとき、本当は、半信半疑だったんですよ。暇さんたちは、何のために私たちを助けるのか。正義感からというのは、あくまでタテマエで、なにか、別の魂胆があるんじゃないかと疑心暗鬼でした。たとえば、法外な手数料を請求されるのではないか、どこかの政党なんかの下請け仕事をやらされるんじゃないかなど、ですね。いま考えれば、実にバカな妄想だったんですが、さんざん社会の汚い裏側を見てきた身としては、人や組織を見る目も素直ではなかったんですね。

 今日は現状報告に上がりました。暇さんにお会いして、久しぶりにビールも飲みたかったし。

 損保を去ってから、AI企業でソフトウエアの仕事で数年働いていますが、そこで今また退職推奨を受けています。現在の会社に未練はないし、仕事もそれほど面白いわけではないので、たたかってまで会社に残りたいとは思っていません。誰もが生活のために年収アップは必要ですが、そのためには転職か、昇進の二通りしかないんです。昇進は難しく狭い門です。であれば、転職市場で、現年収よりもいい条件(平均20%アップぐらい)の、転職先を探すのが通常のパターンなのです。会社はそれを含みに常に従業員の一定割合に対して退職推奨を繰り返すわけです。若手で体力もあり、現在働いている社員より少し安い年俸で雇える人と入れ替えを図る。人事管理部門の仕事は主にそれなんですよ。人をやめさせる仕事ですね。アメリカ映画に、そういう担当者の実態を描いた作品がありましたね。あれですよ。

 もちろん、退職推奨ですから、退職金は示されますが、それで数か月食いつなぎながら次の就職先を探す。これがパターンです。就職先ですか?基本は自分で探します。ネットなどでのマッチングですね。働きやすさとか環境ですか?あまり余計な条件は考えません。一にも二にも年収です。最低120%アップが目標です。

 暇さん、わたしのこと、一匹狼、根無し草の孤独な渡り鳥だとお思いでしょうね。

 え?あらかじめ個人加盟労組に入っておくという選択肢ですか?うーん、どうもそれがしっくりこない。労働組合の有難さは経験上わかっていますが、より高い年収を求めるとしたら、別の仕事先を探すことしか解決手段がないんです。それは労働組合に頼む筋合いじゃないし。労働組合って、結局、「職場」や「権利」を守るという、いわゆる「守りの組織」でしょ。年収アップは賃上げ闘争で、でしょ。理屈はわかるけど、なんか、もどかしいし、新鮮さを感じない。そもそも会社や「職場」に未練も魅力も感じていない私としては。だから結局、手っ取り早く、自分一人で解決できる方法へ流れるんですね。

 暇さん、わたし、何か間違っていますか。それとも、どこかですれ違っているでしょうか。