昭和サラリーマンの追憶 

              

      

   次々に明るみに出る大手損保の不正の裏側

 

             前田 功


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


 大手の会社・団体に勤務したことのある人の多くは、生命保険や自動車保険・火災保険などに安く入れた経験があると思う。団体扱い割引である。勤務先は、これを福利厚生の一環として従業員に薦めたりしていたが、ほとんどの場合、その保険を扱うのはその会社の子会社である機関代理店であり、代理店手数料がその子会社の収入となっている。

 保険料は給与から天引き、会社がまとめて保険会社に払うので、保険会社側にとっては、集金の経費が少なくて済む。その分、保険料を割引するという理屈で、保険料はかなり安くなる。大きな会社では、個人扱いの場合より20~30%安くなることもある。

 5月12日、朝日新聞が「個人向け保険 事前調整か 損保大手4社 企業向けに続き」という見出しで、この「団体扱い保険」に関する不正を報じている。

 記事によると、企業や団体向けの「団体扱い保険」で、保険料を事前に調整した疑いがあることがわかった。少なくとも100を超える企業・団体の従業員向けで不適切な行為があったとみられる。金融庁もこの問題を把握して調べており、6月中にも結果をまとめたい考えだ。

 「団体扱い契約」は、損保会社が代理店経由で販売。一般的な保険と同じように個人が契約者となるが、給与天引きなどで保険料の徴収は企業・団体が担う。自動車保険の「団体扱い契約」では、大口団体割引が適用される。割引率は、対象の企業、・団体での契約数や損害率に基づいて算出。その際、自社のデータだけでなく当該企業・団体に同じような保険を提供している他社分もまとめて計算する仕組みになっており、担当者間でやり取りが生じる。このため、不適切な調整が起きやすかったとみられる。

 損保大手4社は、昨年、企業向けの保険で事前調整(つまり談合)があったとして金融庁から業務改善命令を受けている。今回は、個人向け保険でも疑いが浮上したことになる。

 

 同じ朝日新聞の4月24日には、「保険契約なら新車やスーツ購入? 損保業界の本業支援 是正可能か」という記事もある。

 損害保険業界には大型の保険契約を獲得するため、契約先企業の商品やサービスを購入する「慣行」がある。相手の本業を助けることから「本業支援」と呼ばれる。

 昨年12月、日産自動車は大手損保各社に、自社グループで扱う自動車関連の保障サービス「日産カーライフ保険プラン」の開発に関して、入札を実施すると各社に伝えた。その「参加条件」として、日産の自動車を、損保の社用や社員の自家用として何台購入するか、具体的に示すよう求めている。朝日新聞が入手した日産の損保各社への依頼資料には「(保険契約の)シェア1%あたりでの自主目標をご回答ください」と記されている。入札の参加条件には「損保会社コールセンター対応」などとともに「車両紹介」も明記されている。

 

 大手損保4社は、私鉄大手の東急グループ向けの火災保険が発端となった「共同保険」のカルテルで、昨年12月金融庁から業務改善命令を受けている。その東急グループの契約は、入札結果が反映される割合は60%で、残りの40%は政策保有株やグループのゴルフ場やホテルの利用、賃貸マンションの契約などの「営業協力」で決められていた。紳士服メーカーにはオーダーメイドスーツ、宿泊業には社員らのホテル利用、飲料メーカーにはビール券の購入といった「支援」もあった。

 金融庁が改善命令のなかで問題視したのは、「政策保有株」とともに、本業支援の慣行だった。「営業担当者にとっては、シェア獲得・拡大に向けた適正な競争に対する意欲が損なわれた可能性がある」と指摘した。

 これを受け、損保各社が提出した改善計画では、「過度な本業協力については、解消に取り組む」(東京海上日動火災)、「保険契約および取引シェア獲得のためにこれまで行ってきた本業支援のあり方の見直し」(損保ジャパン)などと盛り込んでいる。

 

 日産の要求は、これらの改善計画が出されたばかりのところで明らかにされたため、反響を呼んだが、損保の体質改善は進みそうにない。

 これらの不正は、損保業界の「大口優遇」が基礎にある。保険料は大口も一般契約者もひっくるめて算出されている。結果、大口契約者や大口代理店のために一般契約者が搾取されている。そのことをもっと認識すべきである。

 以前にもビッグモーターの件(3月号)で触れたが、トヨタ系ディラーの不正請求についても、保険会社も金融庁もほっかぶりのままである。