真山 民「現代損保考」

       しんさん・みん 元損保社員。保険をキーに経済・IT等をレポート。


                           生成AI保険と宇宙旅行保険 

                                日米首脳会談の合意と損害保険

           


 あいおいニッセイ同和損保が「生成AI 専用保険」を発売

 

 学習したデータを活用して、自らオリジナルのコンテンツを生み出せる生成AI、その一つであるチャットボットは、顧客の疑問や質問に的確に回答するコミュニケーションツールとして、企業が業務効率化に活用している。想像力が必要な広告分野や商品デザイン分野でも、生成AIによるアイデア提供やコンテンツ作成が役立っている。 

 その一方で、生成AIは、①間違ったリスクを出力するリスク、②ディープラーニング(深層学習)とフェイク(偽物)を組み合わせ、特定の人物の顔や声などのデータを使用して、悪意のあるコンテンツを生み出すディープフェイク・リスク、③著作権など、他人の権利を侵害するリスク、➃プライバシーやセキュリティの侵害、あるいは不正アクセスや情報漏えい、サイバー攻撃などのリスク、を抱えている。

 あいおいニッセイ同和損保とAI 技術開発企業のArchaicは、生成AI の安全・安心な導入・活用の促進と、導入に際して企業が抱える上記のリスクを払拭することを目的とした「国内最初」の保険、「生成AI 専用保険」を共同開発し、3月に発売した。その内容は下表のとおりだ。

                     (あいおいニッセイ同和損保ホームページより)

  

 東京海上は宇宙旅行保険を発売

 

 東京海上日動火災は、民間人を対象とした宇宙旅行保険の販売を始める。宇宙への出発日から地上に帰る日までに生じた旅行者自身の後遺障害や死亡を補償する保険だ。搭乗機の飛行実績などを踏まえて、個別に補償範囲を定め、保険料を算出する。保険料は到達する高度や滞在日数、補償内容にもより、数百万円から数千万円になる。

 宇宙旅行の保険開発には、三井住友海上火災保険がANAホールディングスやエイチ・アイ・エス(HIS)など宇宙ビジネスに関連する企業と協力して開発しており、2030年ごろの販売開始をめざす。損害保険ジャパンも宇宙旅行保険を開発中である。

 

 新しい保険の販売の背景に「日米の科学技術の協力」

 

 生成AI専用保険と宇宙旅行保険、こうした現代の新しいリスクを補償する保険の販売に力を入れる損保企業の背景には、国や大企業の戦略がある。最大の戦略が、岸田首相がバイデン米大統領と交わした共同声明に盛り込まれた経済安保・科学技術の協力だ。「重層的に協力を進める科学技術」(日経 4月10日)のうち、主な分野は次のとおりだ。

 ・AI  産学官の研究の枠組み 企業などが1.1億ドルを拠出。

 宇宙 米国の有人月面探査「アルテミス計画」への日本の協力。日本人2人に月面

  着陸機会。

 ・脱炭素 脱中国依存へ日米の投資ルールを整理。浮体式風力発電の導入に向けた

  日米閣僚級の対話。

 ・戦略物資 半導体や蓄電池などの供給強化に向けた日米両国の補助金支給基準の

  共通化。重要鉱物の確保の相互協力

 ・核融合 実証や実用化に向けての取組みの推進。発電技術を巡る両国のパートナ

  ーシップの創設。

 

 科学技術の基本と現状

 

 それぞれの科学技術の基本を説明し、現状を見てみたい。

「アルテミス計画」」とは、人類を再び月に送る米国主導の探査計画で、これにトヨタ自動車などが開発する有人月面探査車「ルナ・クルーザー」を運用する。

 風車を洋上に浮かべる「浮体式洋上風力発電」は、四方を深い海に囲まれた日本の再生可能エネルギーの切り札とされており、大手電力、三菱商事や丸紅など大手商社、NTT子会社など14社が、「浮体式洋上風力技術研究組合」を設立した。

 核融合は、軽い原子核を高温高密度の環境下で強制的に合体(融合)させて重い原子核を作り出すことで、その過程で非常に大きいエネルギーを生み出す。燃料として使用する水素も豊富であり、燃焼後に二酸化炭素などの有害物質も排出されないため、環境にやさしいエネルギー源として期待されている。核融合技術は、世界中で研究が進められており、将来的には実用化されることが期待されている。

 半導体は電気を通す導体と通さない絶縁体の中間の性質を持ち、電気の流れを制御する物質。データを処理する「ロジック」や記憶用の「メモリー」、温度などの情報をデジタル信号に変換する「アナログ」、電圧を制御する「パワー」などに分けられる。 

半導体については、日米欧が補助金でTSMC(台湾積体電路製造股份有限公司 世界で最も時価総額の高い半導体企業の一つ)などの誘致に努めている。

・日本 2年で2 兆円を補助、今後も拡大。

・米国 5年で7 兆円を補助。

・EU 2030年までに官民で6兆円補助

 

「アメリカは独りでない」岸田首相の米議会での演説

 

 「米国は独りではない」。岸田首相は4月11日、米議会の上下両院合同会議でこう演説し、日本が米国の「控えめな同盟国」から「強く関わる同盟国」になることを宣言した。日本の首相による米議会での演説は2015年、安倍晋三氏が集団的自衛権の行使を認める安保法制を制定し、中国の軍事力増強や北朝鮮の核・ミサイル開発に対抗する防衛を求める米国の期待に応える演説をして以来だ。

 2022年には、新たな安保戦略で防衛費を国内総生産(GDP)比2%相当に増やし、自衛隊に相手国への反撃能力を持たせることを決定した。さらに24年には、共同開発した防衛装備品の第三国への輸出解禁や自衛隊が米軍の指揮下に入る指揮統制の仕組みも申し合わせた。

 日米の軍備・防衛体制の統合とともに、日本が米国に対して「科学技術の協力」を表明したことは、宇宙開発、核融合、人工知能(AI)、量子技術、脱炭素、バイオなど、広範囲に及ぶ協力体制を構築し、経済においても日本が中国と対峙する役割を担うことを表明したことにほかならない。そのことが、今後私たちの暮らしと働き、安全にどのような影響を及ぼすか、冷静に見ていかなければならない。