真山 民「現代損保考」

       しんさん・みん 元損保社員。保険をキーに経済・IT等をレポート。


      JAL機と海保機の衝突事故と航空保険

       背景に国と大企業による規制緩和と人員削減政策 


 3者が招いた“信じがたい”事故の要因

 

 羽田空港の滑走路上で、日本航空(JAL)と海上保安庁の航空機が衝突炎上して5人が死亡した1月2日の事故から一か月経った。「航空機同士が滑走路上で衝突する信じがたい事故」、「滑走路に2つの機体がいてはいけないという航空業界の“イロハのイ”はなぜ守られなかったのか」。マスコミはこう報じた。

 「信じがたい事故」が、なぜ起きたのか?JAL・海保の両機と管制(飛行場管制)の3者それぞれが、事故につながる要因を招いたと指摘されている。朝日新聞(1月9日)の「時時刻刻 羽田衝突、重なった誤算」は以下のとおり伝えている。

    

 海保機は「滑走路に侵入許可」と認識、日航は「海保機を目視できず」

 

 海保機の機長は事故後、海保の聞き取りに対し「進入許可が出ていたと認識していた」と話している。しかし、管制官との交信記録には「(出発機)ナンバー1。C5上の滑走路(手前の)停止位置まで地上走行してください」という指示しかなく、進入を許可したやり取りは確認されていない。「ナンバーワン」は離陸順位を表すために使われ、進入許可を指す意味はない。

 一方の着陸してきたJAL機の3人のパイロットは、JALの聞き取りに対し、3人とも「海保機について視認できなかった」という趣旨のことを話しているという。

 

 管制は海保機の滑走路への侵入に気づかず

 

 管制はどうだったか?羽田空港には、2010年に「滑走路占有監視支援機能」というシステムが導入されている。レーダーなどを通じて着陸機が接近中に出発機が滑走路に入った場合に管制官の手元のモニター画面上の滑走路や航空機の色が変わる仕組みだ。機能は事故当時も正常に作動していたというが、管制官が画面に気づかなかった可能性がある。

 このほかC滑走路には、滑走路への誤進入を防止するための「ストップバーライト(停止線灯)」が設置されていた。管制官が離陸を許可するまでは誘導路の赤色の停止線灯が点灯し、進入が許可されれば停止線灯が消えて誘導路の中心線が点灯する仕組みだが、昨年4月から施設更新工事のため運用を停止していたという。

   

 滑走路で衝突恐れ、10年間で23件 基本的にヒューマンエラー

 

 JAL機と海保機の衝突事故は,ヒューマンエラーの上にインシデント(incident=起こりやすい出来事)や航空事故を教訓としたハードの装置をもってしても防げなかった事故である。事故に至らなくてもヒューマンエラーによって事故寸前であったケースは少なくなく、全国の空港の滑走路で、航空機同士などが衝突する恐れがあったとして「重大インシデント」と判断されたケースが、昨年末までの10年間で少なくとも23件も起きている。別の車両がいる滑走路に航空機が着陸しようとしたなどの例だ。

 23件のうち12件は、地上の航空機や作業車両の動きに原因があるとされた。那覇空港では2018年6月、上空の旅客機が着陸しようとしていた滑走路で、航空自衛隊機が離陸準備に入っていた。自衛隊機は管制からの「滑走路手前」の待機指示を「滑走路上」と思い違いし、進入していたとされる。

 5件は管制側に原因が疑われるもので、徳島空港では15年4月、航空管制員が滑走路上の作業車両の存在を失念し上空の航空機に着陸を許可。航空機は着陸直前に車両に気づき、「ゴーアラウンド」(着陸やりなおし)をしていた。(朝日新聞1月6日)

 さらに羽田空港は、混雑時には航空機が2、3分おきに発着し、世界でも有数の「忙しい空港」だということだ。イギリスを拠点に航空・旅行関連のデータ調査を行う「OAG」によると「混雑空港ランキング」では羽田空港は世界3位。年間の発着枠は約49万回で、発着回数は1993年度は約19・6万回だったが、滑走路の増設などもあり、2018年度に約45・5万回となり、1日あたり平均1248回に達した。1分間に1.5回のペースだ(「週刊文春」1月18日「JAL機炎上全真相」)。 

 羽田を超過密空港にしたもの

 

 LCC便(格安航空便)や飛行機の小型化で、国内の発着便も増加しているにもかかわらず、この10年間、羽田の管制官は80人前後で横ばいしている。1人当たりの取り扱い機数も約1.6倍になり、負担が大きくなった。

 羽田空港を、これだけ超過密空港にしたのが、安倍&菅の“改革”である。パイロットも航空管制官もこういう過酷な条件の中で、「空の安全」を強いられ、そのことが今回の事故の背景にある。

  加えて、首都圏と関東甲信越地方9都県には「横田空域」(正式には横田進入管制区)というアメリカ軍が支配し、日本の航空機が自由に飛ぶことができない広大なエアスペースがある。横田空域を避けるために、羽田空港から西に向かう定期便は急上昇を強いられ、羽田への着陸時は南へ迂回する必要があり、ルートが限られるため渋滞が常態化し、ニアミスの危険も多い。

 

 増収が見込まれるが、地政学リストに左右される航空保険

 

 さて、ここで、損保が関わる航空保険について触れないわけにはいかない。日本航空は今回の海保機との衝突事故に伴い約150億円の営業損失を計上する見込みであり、エアバスA350-900型機の全損ついては、航空保険が適用される見込みだ。

 航空保険は、航空機の損失を対象にした保険で、航空機事故に備えて航空会社が契約し、機体の損害や死傷した乗客への損害賠償金などが補償の対象となる。日本損害保険協会の統計によると、2022年度の正味収入保険料は業界で約330億円で、対前年比で18.7%も増えている。

 世界の航空保険市場も、2022年の40億4,000万米ドルから2023年には42億7,000万米ドルへと、CAGR(年平均成長率)で5.7%成長すると予測され、さらに2027年にはCAGR 5.2%で52億4,000万米ドルに達すると予想される(ザ・ビジネス・リサーチ・カンパニー「世界の航空保険の世界市場レポート 2023」)。

 日本の損保各社はリスク集中を避けるため、共同で「航空保険プール」を作っている。各社が顧客企業から受け取った保険料をプールし、損保の経営体力によって再分配する仕組みで、保険料は地政学リスクによって変動する。航空保険の多くは世界最大級の再保険市場である英ロイズ保険組合の加盟各社が引き受けている。

 2001年の米同時テロで乗っ取られた航空機が、9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルに激突する事件で、大成火災が巨額の再保険金支払いによって経営破綻に追い込まれたことは、多くの損保関係者の記憶に残っている。

 いったん事あると、巨額の保険金が支払われる航空保険だが、その背景には、大企業と日本政府による規制緩和・人員削減政策に加え、アメリカ軍が支配する横田空域があることを忘れるわけにはいかない。