昭和サラリーマンの追憶 

              

      

    ビッグモーター事件について思うこと

 

           前田 功


 まえだ いさお 元損保社員 娘のいじめ自殺解明の過程で学校・行政の隠蔽体質を告発・提訴 著書に「学校の壁」 元市民オンブズ町田・代表


  昔は自動車修理店が街のあちこちにあり、その修理店経由で車を買うことも多かったが、今の時代、多くの人はカーディーラーから直接買う人が多い。整備や修理もディーラーに頼むことが多いようだ。

 

 ビッグモーター事件について思うことというのは、車の修理を依頼する先によって、修理費が大きく違うことである。街の修理屋さんでなら数千円の修理が、デーラーに頼むと数万円ということもある。

 また、ディーラーで修理する場合でも、対物賠償保険であれ車両保険であれ、保険を使う場合は、使わない場合と比べてかなり高いということである。これについては、保険会社側にはそれなりの理屈があることはわかるが、それが今回のような事件の遠因になっているのではないかと思う。

 

 知人から聞いた話であるが、スーパーの駐車場に駐車しようとして、隣の位置に駐車していた車に接触し、しっかり見ないと見えないくらいのキズがついた。たいした事故ではなかったが、こちらのミスは明らかなので、お互い電話番号を交換して別れた。家に帰ると、運転していた人のご主人という人から電話があり、ディーラーに見てもらうというので、どうぞと答えた。その際、任意保険には入っているのか。保険会社はどこかと聞かれた。「○○損保に入っている」と答えた。保険を使うほどのキズではないと思っていたが、一応、○○損保に事故報告をし、警察へも届けた。

1カ月くらいして、○○損保からの報告があった。保険での支払いは、計30万円(修理費20万円代車費用10万円)だったという。

 

 ディーラーの修理代は高い。例えば、ドアにコンパウンドで磨けばとれるのではないかと思うようなキズがついたとする。こんなのでもディーラーでは、ドアごと新品に取り換えることが多い。なぜなら、メーカー系列のディーラーは部品の仕入れ価格が他の業者と比べて格段に安いからだ。売値と仕入れ価格の差、つまり利幅が大きいのだ。

 持ち込んできた客の財布から支払われる場合は、少しは遠慮するのだろうが、保険請求の場合は躊躇はない。小さなキズでそのまま乗れる場合でも、その部品が納入され交換が終わるまでの間、代車を出す。これも利益になる。

 

 知人のケースは、便乗修理・便乗請求が疑われるが、「1つのキズだが、ドアごと新品に取り換える」と言われれば、便乗とは言えないかもしれない。支払う側の保険会社も事故車を見ているのだから、便乗などありえないというのが損保業界側の理屈だろうが、ディーラー代理店にはいくつもの損保が乗り合いをしている。支払い側の損保がシェアのことを忖度し、便乗修理に目をつぶる。そんなことが日常的に行われているのではないか。

 

 ビッグモーターの従業員たちは、こういった便乗修理に近いやり方に麻痺させられてしまい、そして、靴下に入れたゴルフボールを車にぶつけることにも、麻痺させられたのではないか。その麻痺には、乗り合いしている保険会社が大きく加担していると言える。

 

 ビッグモーターについて、もう一つ触れておきたいことがある。

 この会社、年商6500億円、社員数6000人という。

この事件で、この会社は評判を落とし、中古車の売り上げが減るだろう。代理店手数料も減るだろう。オーナー社長親子は、社長と副社長を退いた。しかし、この会社は、非上場で株式もすべて元社長親子が所有する資産管理会社が保有している。上場しているなら株価の下落が心配だろうが、その心配もない。

退いたと言っても、株主様の仰せがすべての株主資本主義の世の中だ。支配権は元社長親子が握っている。後任に据えた社長も、彼らのメッセンジャーにすぎない。

貧乏くじを引くのは、不正を実行させられた従業員たちだ。売り上げ縮小に伴って、解雇される人も出るだろう。

 従業員の雇用を守り、かつオーナー親子の支配権をはく奪する方法はないのだろうか。