「働く」はみんなのもの

     

    ジャーナリスト 竹信 三恵子


 たけのぶ みえこ  朝日新聞社学芸部次長、編集委員兼論説委員などを経て和光大学名誉教授、ジャーナリスト。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)など多数。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。


 家事労働とケア労働 (6) 軍拡とケアの二極化

  

 家事労働とケア労働は、人の生存を支えるための基礎となる労働だ。

 こうした「生存労働」を貧富の差を問わず人権として保障するには、二つの方法がある。(1)家事や育児を自力で担える労働時間規制と、(2)それだけではこなしきれないケア労働を低所得でも入手しやすい形の外部サービスで支えることだ。

 日本は、この二つがあまりにも弱い社会だ。

 女性の家庭内無償労働を暗黙の前提とした極端な長時間労働によって、(1)は、とっくに損なわれている。

 (2)については、女性や子どもに公的資金を使いたくないという路線の下、家庭内の女性(最近は若者も)に無償のケアを丸投げする依存状態が続いてきた。

 こうした「生存労働」の低保障ぶりは、軍拡予算の再来によって、さらに悪化する恐れがある。

 まず、(1)は「異次元の少子化対策」を名目にした社会保険料の増大や、フリーランスなどに対する「インボイス増税」などによる働き手の金銭的な負担増が大きく影響してくる。目減りする可処分所得の回復のため、実質的な長時間労働化が進むからだ。たちが悪いのは、それらが「労働時間規制の強化」のかけ声の下で、「副業」など短時間労働の掛け持ちの形で表れ、見えない「生存労働」の圧迫となる点だ。

 また、(2)については、労働力不足で家庭内の無償労働力への依存が難しくなった今、企業の利益の源泉としての「民営化」で代替されようとしている。ここでは、もうかる富裕層向けサービスだけが膨らむ。

 一方、増税や社会保険料が軍拡につぎ込まれることで低所得者層のケアに対する公的支えは減り、サービス格差はさらに進む。軍拡はこうして、経済格差によるケアサービスの二極化を激化させていく。