雨宮処凛の「世直し随想」

 

 

     忘れてはいけないこと


 あまみや かりん 作家・活動家。フリーターなどを経て2000年,自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。『生きさせろ! 難民化する若者たち』(07年,太田出版/ちくま文庫)で日本ジャーナリスト会議賞受賞。


 新型コロナウイルス感染症が季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行した。

 観光地がにぎわうゴールデンウィーク明けということでコロナ収束ムードが広がったが、決して忘れてはいけないこともある。

 それはコロナ禍で失業するなどして生活を破壊された人々のことだ。

 今年4月1日、生活困窮者の支援団体「もやい」と「新宿ごはんプラス」が開催する食品配布には、過去最多の723人が並んだ。コロナ禍だけでなく、昨年からの猛烈な物価高騰というダブルパンチだ。一度痛めつけられた層の生活は、どれほど収束ムードがまん延しようと、観光地にどれほど人が押し寄せようと、すぐにどうにかなるものではない。それどころか、公的支援が急速に後退する中で、さらに追い詰められている人々もいる。

 例えば、国はコロナ禍の「特例貸付」という形で、困窮者に最大200万円を貸し出してきた。

 生活に困っている層に、給付ではなく借金をさせること自体おかしいと思うのだが、利用件数は2022年9月までに約335万件。総額で1兆4624億円。早い人でその返済は今年1月から始まっているが、「返せない」という悲鳴があちこちから上がっている(返済免除の対象は拡大されているので、利用者はぜひ調べてみてほしい)。

 また、電気・ガス代の支払猶予期間が過ぎて、ライフラインが止まったという声も届いている。

 「5類」に移行しても、街に以前のにぎわいが戻ってきても、私たちには忘れてはいけないことがある。