今月のイチオシ本

『自民党という絶望』宝島社新書 

 


                       

         岡本 敏則

 

    おかもと・としのり 損保9条の会事務局員

 


 本書は、宝島新書編集部が質問をし、9名の政治家、学者が応えるという形式をとっている。9名の方々は「著名人」であり、肩書は省略した。たいへん刺激的な本で、UNUNと納得する。さわりだけでもお伝えしよう。

 

 ◎石破茂=日本国内で流布している「今日のウクライナは明日の台湾」という言説は、なんだかプロパガンダのような根拠のない煽り文句のようにも聞こえます。そのような冷静さを欠いた言説で危機感が煽られて予算規模だけが膨らんでいき、内容については国民にまともな説明もないままでは、民主主義の政府としては不誠実と言われても仕方ないのではないかと思います。そもそも、アメリカは日本が言うことを聞くからかわいくて守っている、などというわけではなく、自国の防衛戦略に在日米軍基地が資するからこそ「日本を守る」という条約を維持しているわけです。その意味では、私は日本はまだ真の独立国家に達していないと思っています。日米安保の本質は、その非対称性にあります。米国が日本を防衛する義務を負い、日本は領域内に米軍を受け入れる義務を負う。世界に米軍基地を置いている国は数多ありますが、条約上の義務として受け入れているのは日本だけです。義務として外国軍の駐留を許している国の、どこが独立国家なのでしょうか。イラク派遣を美談にしてはいけない。美談にすると必ず、命がけで国を守ることは素晴らしい、特攻隊は素晴らしいというような話につながってしまいます。それで一度、この国は滅んでいる。そのことを忘れるわけにはいかないのです。命を懸けて任務を遂行する実力組織を持っているということは、国民全体でその責任と覚悟を負わねばならないということです。

 

 ◎鈴木エイト=安倍首相が銃撃された後、統一教会との関係性が明らかになった議員達のほとんどは「関係ない」「記憶にない」「知らなかった」と繰り返し、言い逃れのできない証拠を突き付けられると「今後は付き合わない」と開き直りました。統一教会のおかげで当選できたことを認め、感謝する政治家は一人もいないのです。統一教会を取材すると、当選と保身のことしか考えていない政治家がこの日本にいかに満ち溢れているか、よくわかります。

 

 ◎白井聡=アメリカにとっての日本は、太平洋戦争という大きな犠牲を払って獲得した戦利品ですから、それを手離すわけにはいかないのです。「軍隊は強くしたいけど、増税はイヤ」というのは単なるバカじゃないでしょうか。強い軍隊が欲しければカネがかかります。国民から税金をさらに搾り上げ、アメリカと一体となって軍事力を行使していこうという道を、今、日本はひたすら突っ走っています。戦前は、天皇制というものに日本の原理があったように、戦後も天皇制と同じような構造が、アメリカをトップに入れ替えたうえでこの国の内的原理として続いている。「天皇陛下を慕うようにアメリカを慕っているのだから、今度はアメリカのために死ねるよな、命を投げ出せるよな」ということを今から突きつけられるのではないですか。私がアメリカの政策当局者であったとしたら、日本という国を心の底から軽蔑します。自分たちが主体であることから何とか逃げようとする。天皇制に依拠したようにアメリカと一体となることに日本の在り方を委ねようとするからです。

 

 ◎古谷経衡=ネット右翼の力はかなり過大評価されていると言っていい。私の調査では、ネット右翼の総人口は全国に200万~250万人です。参議院全国比例で2議席程度の実勢です。少なくはないが、巨大なわけではない。それは自民党も気づいているはずです。自民党はネット戦略に見切りをつけて情報番組にコメンテーターとして出演する学者や論客へのアプローチに切り替えている。具体的には三浦瑠璃さんや古市憲寿さんなどです。

 

 ◎鈴木宣弘=アメリカは、食料を「武器より安い武器」と位置付けています。食料で世界をコントロールするのだ、という戦略に基づいている。今、安保政策を大転換するのだ、敵基地攻撃能力を保有するぞ、防衛力を強化するぞといった勇ましい話になっていますが、もしも経済制裁などに踏み切った場合、逆に日本が経済制裁を受けてあっという間に兵糧攻めに遭います。そうなれば、日本人は戦う前に飢え死にするしかありません。冷静に考えてみてください。日本は世界でも類を見ない、エネルギーも食料もほとんど自給できていない国です。諸外国はどこも食料や資源エネルギーを自国内で確保したうえで経済制裁に踏み切るのです。そうした冷静な判断ができない国ほど、恐ろしいものはありません。

 

 ◎井上寿一=本来、保守というのは反米でなければならないはずです。アメリカからの自立を求めるのが保守のはずなのに。かつては反米だった野党も、今では日米安保を破棄しようという主要な政党などほとんどありません。共産党だって、日米安保即時廃棄とは言っていません。そうすると結局、日米安保がいろんな問題を内包しているとしても、これに代わる外交安保の枠組みが見いだせない以上、これからも続いていくのだと思います。日本においては戦後がいつまで経っても終わらないからです。極端なことを言えば、戦後を終わらせるためにはもう一回戦争をして勝つしかない。ロジカルに考えるとそれが一番わかりやすい。

 

 ◎亀井静香=残念なことに、今の日本には野党が存在しない。政府の姿勢を正すような質問が一切ないんだからな。この間も玉木に言ってやった。「お前のところは予算案に賛成した以上、もはや野党じゃないぞ。こうなった以上は、グルっと回って自民党の右側に入るしかないんじゃないのか」。それで自公との連立報道が出てきた。野党が本来の働きをしないから、政治が大企業のポチになっているとも言える。その点、少しはマシなことを言っているのが共産党だ。志位は考え方が柔軟だし、内部留保への課税、富を独占する新自由主義に反対している点では俺と同じだ。