「任期延長改憲論」は危険


           飯島 滋明        


  

 

 

衆議院の憲法審査会では、災害などの緊急事態に国会議員の任期を延長できる「憲法改正」の議論が急ピッチで行われています。この狙いは何か。憲法学者の飯島滋明名古屋学院大学教授に寄稿してもらいました。

 

 

●「災害などへの備え」口実に

 

 衆議院では3月2、9、16、23、30日と憲法審査会が開催されました。憲法審査会で自民党、公明党、日本維新の会、国民民主党、有志の会の「改憲5会派」は、災害などの緊急事態によって選挙ができない場合に備えるとして、国会議員の任期延長を可能にする憲法改正を主張しています。

 憲法では衆議院議員は4年(45条)、参議院議員は6年(46条)と任期が定められています。災害などが発生して選挙ができない場合でも国会機能の維持は必要であり、「任期延長の憲法改正が必要だ」と改憲5会派は主張します。このうち維新、国民、有志は改憲条文案を「3月中」に出す構えでした。

 「国会機能維持が重要」と言いますが、その前に、国会は市民の生活を守る「仕事」を本当にしてきたでしょうか? 新型コロナ感染拡大の下、政府や国会は迅速な対応ができず、多くの市民が仕事を失い、特に若い女性の自殺が増加しました。

 市民の命と暮らしを守る法律さえ制定しなかったのに、自分たちは選挙を延期して国会議員に居座り続けられる「任期延長の改憲論」を主張するのは虫が良すぎるのではないでしょうか? 改憲などの前に、災害時にも選挙を行える公職選挙法の改正、憲法53条の「臨時会」、54条の参議院「緊急集会」で対応することこそ検討すべきです。

 

●「9条改憲」を誘う危険性

 

 「任期延長改憲論」は、9条改憲と「戦争できる国づくり」の「呼び水」となる危険性があります。

 3月の憲法審査会でも自民党は「9条改憲」も必要と主張しました。しかし、憲法9条を改正しても「戦争できる国」は完成しません。戦争遂行のためには、負傷兵の手当を医師や看護師に命じたり、市民から土地や食料などを取り上げたり、反戦運動を禁じる手段も必要だと改憲派は考えています。

 こうした手段を持ち、真に「戦争できる国」にするためには、法律と同じ効力を持つ「緊急政令」を制定する権限を内閣に認めることが必要となります。戦争遂行には多くの予算が必要になるため、国会の議決がなくても予算を決められる権限(緊急財政処分)を内閣に認めることも必要となります。そのための「緊急事態条項」の導入が必要になるというわけです。

 ただ、ナチスドイツのヒトラーが「緊急事態条項」を悪用して「独裁体制」を確立し、世界を戦争に巻き込んだ歴史から、市民の中に「緊急事態条項」に警戒する雰囲気もあります。

 そこで、自然災害などを口実に任期延長の改正が必要だとし、それで対応できない場合は、「緊急政令」と「緊急財政処分」を内閣に認める「緊急事態条項」の導入が必要――と自民党は主張しているのです。

 「国会議員の任期延長改憲なら問題ない」と考えるのは間違いです。この改憲は「緊急事態条項」、ひいては9条改憲の「呼び水」となる危険性があることを知っておいてください。