「働く」はみんなのもの

     

    ジャーナリスト 竹信 三恵子


 家事労働とケア労働(3) 

 「見えない労働」の測り方

 

 ケア労働は、労働問題の柱の一つとして広く注目されるようになった。

 人をケア(世話)する労働は、モノを生産する労働とは異なり、対象への共感や「感情労働」が必須だ。生産労働だけが労働、と考えられていた時代とは異なる労働者保護のルールが問われることになる。

 そうしたケア労働を構成する実労働部分ともいえるのが家事労働だ。ケアは、食事を作る、洗濯をする、といった家事労働なしではありえないからだ。

 この労働も一定の時間と肉体的負担が必要で、なにかの事情で極端に膨らめば睡眠時間にまで食い込みうる。その意味では、どのくらい、だれが担っているかをつかむことは、労働者保護への第一歩だ。

 ところが、家庭内で行われることが多かったこともあり、その質量を測る仕組みは十分発達してこなかった。

 そんな中でかろうじて行われてきた計測方法の一つは、研究者の間で長く行われてきた生活時間調査だ。ここから家事にかけている時間を拾い出すことで家事労働の量がそれなりに明らかになる。

 もう一つが、市場でサービスとして購入する場合の値段と、家庭内でその作業にかけている時間をかけ合わせ、金銭の形で量を浮かび上がらせる方法だ。

 1995年に北京で開かれた国連女性会議の行動綱領に、女性の労働を可視化させる取り組みが盛り込まれ、これを受けて日本でも翌年、経済企画庁が「日本で初の公的な機関による無償労働の測定」として、この方法による家事労働の価値を試算し、発表した。

 

 

 女性が主に担う見えない労働に政府が取り組んだ、という点では注目すべき試みだった。だが、そこからは多くの副作用と、日本社会の厚い壁も見えてきた。