昭和サラリーマンの追憶 

              

      

 

           前田 功


 マイナンバーカード取得強要に思う 

 

 国民の1億人近くが、マイナンバーカードの取得申請を終えたそうだ。

 テレビCMの効果もあったのだろうが、カードを持つと最大2万円のマイナポイントがもらえるというのが決定的だったのだと思う。

 

 マイナンバーカードは、本人確認に便利な「身分証明書」だというが、私たちの生活で身分証明が必要な場面はさほど多くはない。そのカードがなくても、「本人確認」する方法はいくらでもある。以前は、「マイナンバーカードを作れば便利になる」と言っていたが、このところ「マイナンバーカードがないと不利益を被る」と言い出した。まるで脅しだ。

 すでに、国民全員にマイナンバー(背番号)が付けられているのだから、国民の側がカードを持っていようといまいと、国や自治体の仕事はデジタルでできるはずだ。

 

 カード取得だけでなく、キャッシュレス化促進とか、低迷している消費を掻き立てるという効果もついでに狙ったというというのも、理解はできる。自公の選挙対策としてのバラマキということも考えられる。

 それにしても、2万円を1億人に配れば、2兆円だ。それに加えてシステム業者への支払い・取得促進のための民間委託費などもあろう。カードを持たせるためだけに、兆円単位の国費を使うというのには納得がいかない。ホンネはどこにあるのだろう。

 

 1つ考えられるのは、IT利権だ。

 この事業は国民に便宜を与えるというよりは、税金を使ってIT企業を潤す一大事業とみると理解ができる。昭和の時代には、土木・建築関係の公共事業がハコモノ行政だとして批判されたが、今の時代は、マイナンバー関連こそが最大の「公共事業」ということなのだ。

 システムや機器はどこの会社が受託しているのだろうか。NTT、NEC、日立、富士通などがかかわっていることは推察できる。

 マイナンバーカード発行業務などを担うJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)の発注したマイナンバー関連事業で、競争入札を実施せず任意の業者を選ぶ随意契約か、1事業者しか入札に参加しない一者応札の割合が84%に上るという報道もある。国の事業には必ずあの悪名高き電通や政商竹中のパソナがかかわっているのだから、当然と言えば当然だ。

 

 振り返ってみると、そもそも、住基ナンバー(2015年本格稼働)で、住民票がある国民すべてに背番号が付けられたのだから、それで公務のほとんどはデジタル化できたはずだ。

 なぜ国は住基ネットを利用せず、新たにマイナンバーというシステムを作ろうとしたのか。その答は、住基ネットの利用拡大・改変よりは、新たにマイナンバーで行く方が、ビジネスとしては、つまり利権としては大きくなるからだ。

 

 近い将来マイナンバーカードは廃止になる、と筆者は予想する。国民のほぼ全員がスマホを持つようになった今、カードは時代遅れだ。交通系カードやクレジットカードは、多くの人がスマホに移し替えて持つようになってきている。

 すでに総務省でカード廃止に向けた実証実験を始めているという情報もある。

昨年から今年にかけて鳴り物入りで配り始めたマイナンバーカードだが、あと数年もすれば、ほとんど使われなくなるだろう。もったいない話だが、IT利権屋たちは、また儲かるとほくそえんでいるのだろう。

 

 もう一つ考えられるのは、カードを申請させることで、国側が新たに得る個人情報と言えば、顔写真だけだということだ。国は、それが欲しいのではないか。 

 そこで脳裏に浮かぶのは、数年前、多くの人の反対にもかかわらず成立してしまった共謀罪だ。最近の状況を共謀罪当時の論議に重ね合わせると、政府が力ずくでカード取得をさせようとしている意図が透けて見える。

 共謀罪では、実際の犯罪行為がなくても相談、計画しただけで犯罪だとされる。共謀罪の立証には、実際の犯罪行為がない段階から、相談、計画があるのかないのか、あるとすればその内容はどうだったのかということを把握しなければならない。必然的に一般市民の日常的な監視が必要となる。そのときにこの顔写真データが利用されるのではないか。

 

 マイナンバー制度では、法律に書かれた目的以外でマイナンバーを利用するのは禁止されている。しかし、テレビの刑事ドラマでは、ハッカーのような能力をもったITオタクの警察職員が、顔認証システムを使って即座に犯人を割り出す場面がよく出てくる。すでに、警察庁は、あらかじめ作成した顔認証データベースと顔認証・照合ソフトを組み込んだノートパソコン(可搬型顔画像検出照合装置)を、全国の都道府県警察に配備済だそうだ。

 

 アベの時代に明らかになった政府内部のウソ・隠蔽体質は改善されないままである。

 筆者は、運転免許証を持っているので、顔写真データは既に政府に盗られている。カード申請しても新たに盗られるものはない。しかし、政府不信任の意思表示として、カード申請はしないでおこうと思う。