真山  民「現代損保考」


               自賠責特別会計と地方自治体の特別会計・基金

               

 

 

     地方自治体の予算にもある「特別会計」

 

 先月号で、自動車賠償責任保険(自賠責保険)の保険料の収支残や運用益積立金の滞留資金が、「自動車安全特別会計」から国の「一般会計」に繰り入れられたこと、繰り入れられた金額のうち、2022年度末で約6千億円が「特別会計」に戻されていないこと、にもかかわらず、被害者保護増進等の事業に充当するための賦課金として、年間1台あたり125円を自家用乗用車(普通・軽)の保有者から徴収することを書いた。

 予算には、「単一会計の原則」とか「総計予算の原則」のしばりがある。国全体の財政状態の把握や財政の健全性の維持のために、数多くの予算の併存を避け、原則として予算を一本化するように努めなければならない。ところが、国は13もの特別会計を設定し、その積立金の合計は平成元年度(2019年度)現在で約12.4兆円にも及ぶ(財務省主計局作成「令和2年版特別会計ガイドブック」)。

特別会計制度は、都道府県、市町村の予算にもあり、不明朗な処理が行われている。それについて、筆者在住の東京都練馬区の「特別会計」を例にとり、説明したい。

 

 練馬区の一般会計と特別会計の予算額と執行状況

 

 練馬区の場合、「一般会計と特別会計の予算額と執行状況」を明らかにした財務書類として、「各会計歳入歳出決算審査意見書」と「基金運用状況審査意見書」がある。練馬区の「各会計歳入歳出決算審査意見書」には「各会計の決算規模」という一覧表が載っている。令和3年度(2021年度)の規模は別表のとおりで、平成29年度(2017年度)から令和3年度の4年間の一般会計・特別会計の増減から次のことが言える。

 1.一般会計は歳入・歳出とも24%以上増え、差し引き(黒字)に至っては30%以上も増えている。

 2.国保事業、介護、後期高齢者医療の特別会計では、国保は歳入歳出とも減少しているが、介護と後期高齢者医療については増えている。特に介護保険会計の差し引き(黒字)は、4年間で2倍以上になっている。

 

 介護保険制度を運営している保険者は、市町村と特別区であり、被保険者(介護サービスの受給者)は保険料を払っている住民である。こんなことを、今さら書くのは、保険者である市区町村や特別区が所得税同様、富裕層から応分の保険料を徴収していない逆進性を放置しながら介護保険料を引き上げ、かつサービスを切り下げている、あるいは自己負担を強いている実態が年々強まっていることが、練馬区の「介護保険会計」からも分かることを伝えたいからである。次に「基金」について触れたい。

         

 

   「基金」は一般会計と特別会計の黒字の累積

 

 「基金」とは、地方自治法第241条に定められた制度で、「特定目的のために財産を維持し資金を積み立て、又は定額の資金を運用するために、自治体が条例の定めに基づいて任意に設置した資金又は財産」と定義されている。この原資(ファンド)は、自治体の一般予算と特別会計に生じた黒字である。

 「基金運用状況審査意見書」を見ると、練馬区は、基金を2015年度の723億円から2021年度の1205億円と、7年間で66.7%も増やしている。全国的に自治体の基金は急増している。総務省がまとめた自治全体の2021年度末の基金残高は、20年度末から1.7兆円も増え8.6兆円と、平成以降最大になった(日経 2022年10月9日)。

 練馬区の基金は12あるが、大きいのは財政調整基金の約483億円(構成率40.1%)と施設整備基金の約270億円(同22.4%)である。財政調整基金は「自治体の貯金」といわれ、自然災害や急な税収減に備え、使い道を限定しない一般財源として自治体が積み立てている基金である。

 総務省のホームページには「地方財政状況調査関係資料」が載っており、それを見れば、全国の自治体の令和2年(2020年)現在の基金残高が把握できる。練馬区は920億円で東京23区中10位だが、それより少ない中央、台東、品川、北、荒川の5区が小中学校の給食費の無償化を実施、もしくは検討しているのに、練馬区は「財政難」を理由に計画していない。一方で、築37年しか経っていない区立美術館の全面改築の計画が進

められ、区民から批判が寄せられている。因みに、練馬区長は石原慎太郎都知事のもとで福祉局長として福祉医療の切り下げに奔走した後、東京ガスに天下り、同社の汚染跡地を東京都に豊洲市場として売りつけた前川耀雄氏である。

 

 今年は統一地方選挙の年

 

 「自賠責保険特別会計」について書いていくうちに、国や地方自治体の財政の歪みも、少しずつ分かってきた。今年は4年に一度の統一地方選挙の年である。しかし、もっとも身近な選挙でありながら地方自治体の首長の選挙、議員の選挙の投票率はいたって低い。また、人口減少高齢化にともなう議員のなり手不足など、「民主主義の学校」と言われる地方政治は危機に直面している。

 昨年6月の杉並区長選で、187票差という激戦で現職に勝利した岸本聡子さんは、1月に上梓した『地域主権という希望』(大月書店)で次のように書いている。「実際に生活者から見ると、自治に参加するといってもピンと来ない人が大多数です。街づくりや税金の使われ方に疑問や違和感があったしても、それを行政に伝える回路は乏しく、そのために労力をかけようとも思わない人が多いでしょう」

 住民の関心の薄さ、議会における与野党の議席差、それに一部野党のゆ党化も加わって、今や地方議会はまさに政府の下請け機関の様相を強めている。例えば自治体でのマイナンバーカードの普及の程度を地方交付税の支給に反映するというようなことは、その典型である。生損保はそれに便乗して、国民の個人情報を利用し保険や介護事業の収益拡大を図ろうとしている(次号では、それについて書く予定である)。

 

 今、ヨーロッパ、ブラジル、ソウルと、世界で岸本区長が唱える「ミュニシパリズム(地域主権主義)」、あるいは「市民参加予算編成」の運動(宇都宮健児弁護士の講演)が広がりつつある。東京都の自治体では、杉並区、世田谷区、中野区、多摩市で、「住民と一体となった自治体の構築」が進められている。統一地方選挙では、住民の声に耳を傾け、暮らしの改善向上のために住民とともに奮闘する候補者に一票を投じたい。