斎藤貴男「レジスタンスのすすめ」


 

 

         もてはやされる危ない主張

 

 少子高齢化問題で、恐ろしい発言をした起業家兼経済学者がいる。成田悠輔、38歳。

 「唯一の解決策ははっきりしていると思っていて、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないかと」「人間って引き際が重要。別に物理的な切腹でなくて、社会的な切腹でもよくて」「安楽死の解禁とか、将来的にあり得る話としては安楽死の強制みたいな話も議論に出てくる」…。

 半熟仮想(株)代表にしてイェール大学助教授の肩書を持つ。高齢者優先の〃シルバー民主主義〃打倒をうたい、ビッグデータとAIによる政治を提唱した「22世紀の民主主義」(SB新書)で評判の人物だ。

 発言には当然、批判も殺到した。けれども一方、たとえばネット空間などでは、これに賛同したがる向きが決して少なくないともいう。

 多くは若年層らしい。目下の日本社会が陥っている閉塞状況は、それほどまでに深刻だということなのか。

 危険に過ぎる。データだのAIだのと、いかにも最先端ぶりながら、その実、ナチスのホロコーストと寸分違わぬ優生思想そのものでしかありはしないからである。

 この手の発想が、近年はやたらと、まるで斬新なアイデアでもあるかのようにもてはやされがちな傾向が、私は怖い。日本経済の生産性が低いのは中小零細の〃ゾンビ企業〃のせいだから、この際は息の根を止めてしまい、市場の〃新陳代謝〃を図るのが正解だなどという主張も、今や多数派になりつつあるのではないか。そこにだって魂をたたえた人間が生きているのに。

 ただ、興味深い状況も現れてきた。いつの間にかお茶の間のスターになっている成田氏が、正月のお笑い番組で、2人の芸人とトリオを組み、ボケ役を熱演していたのだ。

 勘違い男など笑いのめしてしまえという狙いか、その存在が視聴率を稼げるという判断なのか。前者であると信じたい。