松久 染緒  随感録 

 

        「核の冬」最悪なら日本のほぼ全員餓死

 

 開戦記念日の2022年12月8日の朝日新聞夕刊に、こんな衝撃的な表題の記事が出ていた。まず数字を示してみよう。

 ロシアのウクライナ侵攻でプーチンが脅しのセリフとして核兵器の使用をちらつかせているが、冗談ではない。もはや万一ではなくなっているのかもしれないが、もし核戦争が起こってしまえば、その後に起こる地球環境の激変である「核の冬」による食料不足で、最悪の場合、世界で50億人以上が餓死するという試算が米ラトガース大研究チームの論文で示された。

 核爆発による直接の被害をまぬかれても、その後の気候変動による影響は、地球規模に及び、人類は壊滅的な打撃を受けるというのだ。食料自給率の特に低い日本(38%)は、深刻だ。

 核戦争による被害は、冷戦時代からさまざまな試算がなされてきたが、核爆発によって大気中に舞った粉塵が太陽光を遮り、地球規模で気温が下がり「核の冬」の到来が予測されている。

 

 上記の研究チームは、核戦争のシナリオとして、インド・パキスタン間の局地戦争と米・ロによる各国を巻き込んだ世界戦争の2パタンを想定し、その後に各地で起きる気温低下と農作物や漁獲量への影響などを分析した。表中の核兵器使用数の100から500発は局地戦争の場合であり、4,400発は米・ロによる世界戦争の想定で、広島型原爆の5,6倍の威力に当たる100キロトンの核兵器が4,400発使用される最悪のケースである。その結果、2年後の食糧生産が、局地戦ではカロリーベースで7~48%減少、米・ロ戦では同80%以上減少する。世界的な食糧危機で国際取引が停止されると、餓死者は最小でも2億5千万人、米・ロ戦では50億人を超えるとされる。

 

 食料自給率の低い日本では被害が深刻だ。試算によれば、粉塵が最も少ないケースでも国際取引が止まれば2年後に人口の6割に当たる7千万人が餓死するという。一方、食料自給率が高いと(豪128%、加121%、米92%、仏83%、独70%)餓死者が出ない国も多く、日本だけで餓死者の3割を占めることになる。米・ロ戦が起きた場合には、日本の人口のほぼすべてが餓死するという。これは試算だが同時に現実でもある。ラトガース大のアラン・ロボック特別教授は、「分析結果は、日本が核兵器禁止条約を批准し、米国の核の傘依存をやめる必要があることを示す。核使用があれば日本にとって自殺行為になる。」とコメントしている。もって瞑すべきである。