「働く」はみんなのもの

     

    ジャーナリスト 竹信 三恵子


  

「会計年度職員」の不思議(8)  困るのは、あんたらやで

 

 会計年度任用職員(会計年度職員)の低待遇は、ようやく深刻な貧困問題として受け止められつつある。

 20年前、新聞記者として非正規公務員問題を取り上げたときは、公務員バッシングの反応の多さに泣きたくなった。隔世の感だ。

 だが、会計年度職員制度のツケは住民にこそのしかかる、という点は、ほとんど共有されていない。

 まず、「1年有期」の公務では行政サービスの質が保障されない。住民の駆け込み寺ともいえる相談業務や窓口は会計年度職員が担う。これらの職務は経験が命だ。それが「1年有期」とは。驚くしかない。

 住民の苦情や提言も、短期契約による雇止めで封じられてしまう。「はむねっと2022年調査」の次のような自由記述は、その好例だ。「正規(特に上層部)は自分の立場を守るために保守的。改善を求め、意見する非正規職員は組織ぐるみで退職に追いやられる。理不尽なことがあっても相談できる窓口がない」(女性・40代)

 こうした制度は、民間と公務の役割の違いを忘れ去った社会から生まれる。

 民間は利益の出る分野を担当して雇用と法人税を担う。一方、公務は、利益が出なくても、「最低限の健康で文化的生活」に必要なら困窮者を含めて支える。利益度外視の分野だからこそ、税が必要になる。二つは役割が異なる車の両輪なのだ。

 保育園や介護施設が利益次第で簡単につぶれる社会で、人々は安心して働けない。そうなれば、企業の労働力は不足し、利益は上げられない。1年でクビにされる職員が、こうした「人権の砦」として踏ん張り続けられるだろうか。

 会計年度職員の苦境を軽視する人々に、関西の知人の言葉を送りたい。「困るのは、あんたらやで」と。